ぼくたちは夏の道で(9/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

夏祭りの花火の夜。
待ち合わせ場所にこなかった。

明け方、黒岩さんから聞いた言葉と、まったく同じだ。
黒岩さんが、16歳の時の、失恋話。
「山野辺さんが17歳の時の、ですか?」
「うん」
黒岩さんが、花火の夜に待ち合わせした人は、山野辺さんだったのか・・・。

「どうした? 肩が落ちてる」
「いえ、なんでもありません・・・」
山野辺さんは、山の展望台の下でずっと待っていたのだと、ぼくに話した。
「花火が終わるまで、ずっと」
しかし、すぐに、言った言葉を打ち消した。

「いや、やっぱり、聞かなくていい。わたしが悪かったんだ。誘ってもらったのに、テレくさくて、行けたら行くなんて言ってしまった。だからフラれたんだ。来なかったということは・・・、そういうことだ」
「山野辺さん、ぼくの聞いた話によると、フラれたのは黒岩さんです。展望台の上で待っていたけど、彼女は来なかったって」

「展望台の上? そんなはずは、ない! 黒岩金太は、高いところが苦手なんだ。だから、わたしは、展望台の下で待っていた」

「黒岩さんは、がんばったんです。隠れた花火スポットの展望台の上で、どうしても彼女と一緒に花火を見たくて、待ち合わせの2時間前に先に行き、少しずつ、少しずつ、階段を上り・・・」
ぼくは、黒岩さんから聞いたことを話した。

『ほんとうは、山の登り口で待ち合わせたかったんだ。だが、へっぴり腰で展望台の階段を上る姿を見られるのがいやで。えっ? 夜の山は危険じゃないのかって? 彼女は、蝶の観察で山のことを知りつくしていたし、少林寺拳法にも秀でていた。だから、危険という言葉は、頭をかすりもしなかった』
黒岩さんの言葉を思い出し思い出し、抜粋すべきところは抜粋しながら、話した。

心はちょっとズキっとするけど、ふたりの恋をなんとかしたくなっていた。
でも、それは、かなわない。
降り積もった時間と、生と死の垣根にはばまれて。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。