エルとくるみとソラ(1/7)

文・七ツ樹七香  

「くるみちゃん! 見て、うちの子! かわいいでしょう? いまから散歩に行くんだ」
習い事に行くとちゅう、公園のわきを歩いていたくるみは足を止めた。ブランコのそばで大きく手をふっていたのは、ゆいと孝太(こうた)だ。
くるみと同じクラスの友だちだった。

その足元に、みかけない犬が1ぴきいる。まだ子犬のようだった。
ふたりはくるみの元に走ってくる。もちろん犬もいっしょだ。

くるみはまゆをよせて、キッパリと言った。
「わたし、犬はキライだから、近づけないで!」
かけてきたゆいと孝太は、おどろいて立ち止まる。

いっしょに走ってきたたれ耳でどう長の子犬は、くるみを見てうれしそうにしっぽをふっていたが、ゆいはあわててリードを引っぱると、自分のところに子犬をひきよせた。
くるみはいやそうに、ふいっと顔をそむける。ゆいはずいぶんこまった顔をしていた。

「えっ、でも、くるみちゃん、犬のこと・・・」
「へえ、くるみは犬キライなんだ。犬ってさ、かわいいよ? オレの家も、いま犬を飼(か)う相談してるから、ゆいのとこの子犬、見にきたんだ。くるみも、ちょっとなでてみたらいいのに。いまから、ゆいのお母さんといっしょに犬の散歩に行くんだけど、くるみもどう?」

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。