エルとくるみとソラ(1/7)

文・七ツ樹七香  

孝太のなにげないさそいに、くるみはおこったような返事をした。
「かわいいのぐらい知ってるよ。でも、わたしはもう犬のことキライだから。散歩もいかない。じゃあ、ごめんね、いまから絵の教室にいくから」
そう言って絵かき道具の入ったカバンをかけ直すと、くるみは逃げるように走り出した。

入れかわるように、公園の横に建つ新しい家からゆいの母親がゆったりと出てきた。
「ふたりとも、待たせてごめんね。じゃあ、お散歩いこっか。ねえ、さっき走っていったの、くるみちゃんじゃない?」
「おばちゃん、くるみは犬キライなんだって、かわいいのに変だよね?」
「孝太くん、変じゃないんだよ。苦手な人もいるんだから、ムリにすすめたらぜったいにダメ。ゆいもわかった?」

すると、ゆいは少し口をとがらせて言った。
「でも、くるみちゃんのおうちだって、前は飼ってたんだもん。エルっていうおっきくて、やさしい犬」

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。