エルとくるみとソラ(3/7)

文・七ツ樹七香  

くるみの手元でていねいにえがかれた犬は、ソラをとてもよく観察したスケッチだった。あいきょうのある顔つきでふさふさの毛、そしてピンと立った耳がチャームポイントだ。
「そう・・・。でも、好きになれないなら、やっぱりむずかしいかな」
ぽつりとつぶやきが聞こえた。
「どういうこと?」
くるみがたずね返すのをお母さんは待たずに、夕飯のじゅんびをしにキッチンにもどっていった。

ソラは人の動く気配を感じると、頭をむくりと起こしてお母さんを見送り、そしてちらりとくるみを見た。目が合うと、少しうれしそうに、アーモンドみたいな形の黒いひとみがキラッとする。
ソラは、エルみたいなきらきらした目で、エルみたいなやさしい顔で、くるみと遊びたがる。

まっすぐな好意はくすぐったくて、うれしくなる気持ちもある。エルが好きだったようにボールを投げてあげたら、たぶんしっぽをブンブンふってソラもよろこぶだろう。
でも、まだくるみの胸は重たくて、やさしい気持ちが外に出てくるのがむずかしかった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。