エルとくるみとソラ(6/7)

文・七ツ樹七香  

「いつもだれかがうれしいと、エルは自分もよろこんでしっぽをふってた。エルは――、みんなのことが、大好きだったもん。わたしも、エルが、大好きだった」
ポロリと涙をこぼしたくるみが言うと、お父さんはくりかえしうなずいた。

「そうだね。死はつらい別れになるけれど。そのしゅんかんより、はるかに長くあたたかい時間を、エルとわけあってきた。お父さんはそれを大切にしたい。だって、もしどこかでエルに会えたら、きっとしっぽをふって飛んできてくれるんだから」
思い出すと涙が出ることだってあるけれど。と、お父さんはつけ加えて、そばでこまったような顔をしているソラをそっとなでた。

「エルを、悲しみとこうかいでぬりつぶさないでやってほしい」
くるみだっていつも思っていた。大好きなエルを大好きなままでいて、その次に家にやってきたさみしそうなソラを、笑顔でむかえられたらよかった。

エルとの別れを思い出すと、仲良くして大好きになるのは、つらいことのように思えるけれど。たしかに、あの悲しいしゅんかんよりも、ずっとずっとたくさん。エルは楽しくてあったかくて、うれしい時間をくるみにくれた。まちがいなく、そうだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。