オニの忘れた子守歌(2/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

次の日には、もう、パカパカと、馬に乗ったご家来衆が村にやってきました。
やりや刀をたずさえ、よろい、かぶとに身を固めた、いかにも強そうなおさむらいが5人。
「安心せい! わしらでオニを退治してくれるぞ! 祝いの用意をして、待っておれ!」
「へへえ!」
人々は、深々と頭を下げました。

そして、おさむらいたちが山道を登って行くのを、たのもしげに、見送りました。
「んだら、みなの衆、おらの家さ来て、うたげの用意ば助けてけらいん」
庄兵衛のかけ声に、人々は、「よっしゃ!」と張り切り、庄兵衛の家で、お祝いの準備をし始めました。
ところが、いつになっても、おさむらいたちは帰ってきません。
そのうち、空模様があやしくなってきました。
ぽつりぽつりと、雨も降り始め、やがては、重く雲がたれこめて、昼だというのに真っ暗になりました。

ピカピカッ! ドドドーン!!

かみなりが鳴りひびいたかと思うと、ゴオーッと、それはそれはおそろしい風の音。
そして、ばけつをひっくり返したようなはげしい雨。
「なんだべや・・・?」
村人は、みな、ちぢこまって、雨にけぶる山を見やりました。
あらしの一夜が明けて、庄兵衛は、すっかり、冷えてしまったごちそうを前に、ぼんやり、座りこんでいました。

そこへ、バタバタと、村人がかけこんで来ました。
「名主様、早く、見さ来てけらいん!」
庄兵衛がついて行ってみると、入り会いの草地に、おさむらいたちのやりや刀、よろいなどが、ばらばらと、散らばっていたのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。