オニの忘れた子守歌(3/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

「ほんに、おっかねえオニだごだ! あんな強えおさむらい方ば、ぞうさもなく、負かしてよ!」
人々は、みな、頭をかかえました
「どうだべ、もういっぺん、お殿様にお願えしてみだら?」
「だめだ、だめだ!」
庄兵衛は頭をふりました。

「朝方、おさむらい方の形見ば届けるべと、お城さ出向いたら、ご家来衆の最後ば聞いて、お殿様が、どんだけ、ごっしゃいだことか! お手打ちにあうんでねべかと思ったほどだ。
『もう、お前たちの村のことは知らぬ。オニなどと、たわけを言いおって! さしずめ、サルでも、見まちがえたのであろう! マタギにでもたのめ!』
とおおせだ」
「サルなんかでねえ! おらが見ちがうわけ、ねえべ!」
マタギの五平はおよびごしです。

この時、その場で一番の年寄りが言いました。
「どうだべ、吉野山の行者さまにお願いするっつのは?」
みなは顔を見合わせました。
「吉野山の行者さまだあ!?」
「そういや、修業、積んだ行者様は、空も飛べるっつうぞ」
「んだ。オニっこ、家来にして、引っぱって歩くっつ話だ。行者様にたのんでみっぺし」
「んだ、んだ。名主様、そうすべし!」
村人の顔は明るくなりましたが、すぐに、
「んでも、吉野は、京の都よりも、まだ遠いっつでねか?片道だけでも、20日以上はかかるべよ?」
と、心配の声が上がりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。