オニの忘れた子守歌(6/6)

文・伊藤由美   絵・岩本朋子

てんてん坊は、オニをおしのけて、のぞき窓から、中の娘に声をかけました。
「小糸ちゃん、私はてんてん坊という坊主だよ。小糸ちゃんは、どうして、こんなところにいるんだね」
やさしい声に、娘は、はっと、顔を上げました。

「わからないの。おっかちゃんと、さよならしたの。そしたら、ここにいたの。ここは暗くて、何にも見えないの。それに、いつも、こわいオニの声がする。あたい、かえりたい。おっかちゃんに会いたいよお」
「おっかちゃんはここだどぉ!」
と、さけぶオニの大きな口を、てんてん坊は、あわてて、両手でふさぎましたが、手おくれでした。
娘は、また、わんわん、泣き出しました。

「だめではないか、オニどん」
たしなめるてんてん坊の胸ぐらを、オニは、むんずとつかみました。
「なじょしたらええ? どいぐにしたら、娘を助けられる? 坊主だべ!? 考えろ!」
「ううむ・・・」
「ありがてえ経をとなえるとか、何か、すべあるべ!?」
「経か・・・。それより、いっそ、娘さんにたずねてみてはどうだろう? 何か、いい方法が見つかるかもしれない」
「んだら、すぐに聞け!」
オニは、てんてん坊を、のぞき窓におしつけました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

岩本朋子 について

福井県福井市出身。同市在住。大阪芸術大学芸術学部美術家卒。創作工房伽藍を主催。伽藍堂のように何も無いところから有を生むことをコンセプトでとして、キモノの柄作りからカラープランニング等、日本の伝統的意匠とコンテンポラリーな日用品(漆器、眼鏡、和紙製品等)とのコラボレーションを扱い、オリジナルでクオリティーの高いものづくりを心掛けている。また、高校非常勤講師として教えるかたわら、福井県立美術館「実技基礎講座」講師を勤める。