コンプレックスに光を見出す

ぼくは川のように話す
ジョーダン・スコット 文 
シドニー・スミス 絵
偕成社 2021年7月14日刊

皆さんはコンプレックスはありますか?
今日ご紹介する絵本は「吃音」を持った作者の少年時代の物語です。

朝起きた瞬間から、日常にはたくさんの言葉が溢れています。
でも、その中で少年にはどうしてもうまく言えない言葉がありました。
学校へ行っても先生にあてられるのをいつもびくびくしながら過ごしています。

そんなある日、みんなの前で話す番がやってきました。
でも、言葉がでません。
自分のゆがんだ口元へみんなから向けられる視線。
その瞬間の少年の張り裂けそうな心模様が、文章と絵によって強く読者に訴えかけてきます。

その放課後、迎えに来た父親が少年をある場所に連れ出し、一つの言葉を投げかけます。
それが少年に一筋の光を与えてくれました。その言葉とは・・・

この絵本はカナダに住む詩人と画家の二人が手掛けたもので、絵と言葉が見事に融合した作品です。
少年の心が一体化してしまうような読者を引き込む詩的な文章とカナダの自然の風景の美しい描写が大変魅力的な作品です。

はっきりとした輪郭のあるタッチと淡くぼかしたタッチを使い分け、少年の心情を絵で表現している点も秀逸です。
また、この絵本は障害をもつ体験を芸術的な表現としてあらわした児童書として高く評価され、「シュナイダー・ファミリーブック賞」を受賞しています。

人にはそれぞれ様々なコンプレックスがあります。
それをありのまま受け入れること。
それがあるから私なんだという作者の思いに共感し、勇気づけられる読者も多いのではないでしょうか?
そして、自然は私たちにたくさんのことを教えてくれていることにも気づかされます。

大人も子どもも自分自身と照らし合わせながら読んでみると、きっと何か心に残るものがあると思います。

えもり なな について

江森 奈々(えもり なな)1985年神奈川県生まれ。千葉県在住。幼少期より母から良質な絵本を与えられて育つ。幼い頃から絵を描くことが得意で、小学生の頃は漫画を描く。中学生になると美術部に所属し油絵を始める。灰谷健次郎の「兎の目」に感銘を受け、10代は日本や世界の児童文学を読みふける。現在、保育士をしながら絵本や童話、紙芝居の創作、読み聞かせを行っている。画家・イラストレーター、モデルとしても活躍中。絵本は1500冊以上読破。2023年be京都にて初のプチ個展を開催。パレットクラブスクール19期絵本コース卒業。トムズボックス2019冬季ワークショップ修了。 『絵本作家になるには、絵が描けないと無理ですか』(CATパブリッシング)の挿絵を一部担当。 ●YouTube:【なないろ本屋/7's BOOKSHELF】 ●Instagram:【nana_museum】