ステルスおばあちゃん(3/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「あはは! 先生、今でも、お母さんがこわいんすか!?」
「ひどいな、多田君。よし! それなら、今度はレベル2だよ! バキューン!」
《タダー! なんだ、そのバットのふり方は! もっと、こしを入れろ!》
「うわあ、かんとくのかみなりだ! 冷や汗っすよ。じゃ、今度はおれ。レベル3、行きます! バキューン!!」
《五所河原君、わしの娘を泣かせたら許さんぞ!!》

「あはは。お父さんすね、先生の奥さんの?」
「そうそう。いやあ、こわい人なんだよ。今は、アフリカで働いている女房の方にいるけどね。そら、お返しだよ! レベル4!」
「も、もう、やめましょうよ、先生」
「そうだな、多田君。わはは・・」
「わははは・・」
ふたりは、なみだが出るほど、笑いました。

家に帰ると、コスモ博士は、ハツさんに、発明したばかりのテンテキガンをわたしました。
「これを使えば、どんな悪者だって、やっつけられますよ。ただし、レベル10だけは、絶対に、使わないでください。母さんの身に、よほどの危険がせまらない限りね」
「分かったわ、コスモ。ありがとう!」

ハツさんは、いそいそと、明日のパトロールの用意をし始めます。コスモ博士は、その様子を、にこにこ、見ていましたが、ふと、いたずら心を起こして、テンテキガンを、そっと、ハツさんに向けました。
カチッ。
何も起こりません。ハツさんは、せっせと、スタングラやコスチュームを、まくら元に並べているだけです。
「ふしぎなこともあるものだ。お母さんには天敵がいないってことだろうか?」
博士は首をかしげたのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに