ステルスおばあちゃん(7/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

ミエンダー氏がデバイスを切って、周りがもとの公園にもどったとき、ハツさんの心のとげは、すっかり、とけていました。
「いま見えている物がすべてじゃないんだわ」

雑草も、ぼろいパンダも、むき出しの鉄骨さえ、何だか、いとしく思えるハツさんでした。
パラパラと、ヘリコプターがやって来る音がしました。
「あら、コスモがヘリをそうじゅうして、私たちを探しに来たわ。手をふってやりましょう」
「博士はヘリコプターがそうじゅうできるんですか。車は運転できないのに」
「ええ。空は対向車が来ないから、平気なんですって。コスモー、ここよ!」
ハツさんは手をふりました。

気づいたヘリが空き地に下りる前に、ハツさんは、ミエンダー氏に、どうしても、聞いてみたいことがありました。でも、それは、とても聞きにくいことだったので、ハツさんは、ゴクリと、つばを飲みこみました。
「ミエンダーさん。あなたは時間旅行が出来るって言ったわよね。じゃあ、未来にも、行ったわけ?」
「ええ、もちろん」
「教えてください。私たち、人類は、これからずっと先の先・・・たとえば、今から6600万年後、どうなっているの? 恐竜みたいに、絶めつしているの? それとも・・・」

ミエンダー氏は、とびきりの木もれ日顔で、ハツさんに言いました。
「だいじょうぶですとも。人間は、そのころ、かしこく、おだやかで、平和な、美しい種族に成長していますよ。今日の講演会で、私が、地球のみなさんに、いちばん、伝えたかったことは、それだったんです」

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに