ステルスおばあちゃん(8/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

ハツさんが正気にもどったのは、この時です。
「あら、多田さん、私にも紅茶を入れてちょうだいな」
コスモ博士は飛び上がりました。
「いったい、どこへ行っていたんですか、母さん!? すごく心配していたんですよ!」
「キエール星ですよ」
「キエール星ですって!?」
コスモ博士と多田君は、顔を見合わせました。

「ええ。ミエンダーさんが、分かれ際に、『本当にキエール星に来てみたいですか? それなら、もっと、軽くならなくちゃ』と言ってね、ふくろいっぱいの風船ガムをくれたの。
私、せっせと、風船をふくらませたの。1つ、ふくらませると、1つ、何かを忘れたわ。もう1つ、ふくらませると、もう1つ。子供のころのこと、両親のこと、ナユタさんやおまえのこと・・・。そうやって、私は、どんどん、軽くなっていったの」

「それで、最後の1つをふくらませながら、スタングラのスイッチを入れたんですね。それを合図にワープドアが開くよう、ミエンダーさんが仕かけて行ったんだ!」
「気が付くと、私はキエール星にいたわ! ああ、言葉にならないほど、すばらしい所だった・・・ように思う」
ハツさんは、幸せそうに、ため息をつきました。

「私は、そこに、しばらく、いたと思うの。でも、今は、何も覚えていないのよ。帰りのワープドアをくぐる時、ほとんどの思い出は置いてこなくちゃならなかったから。ただね」
「ただ、何ですか、母さん?」
「ミエンダーさんのとなりで、望遠鏡をのぞいたことだけは、はっきり、覚えているの。夜空をおおう真っ白な銀河! そのはしっこでかがやく、美しい、青い星! そして、そのそばにね、私は見つけたのよ、オレンジ色に光る小さな星、私たちの太陽を! その時に感じた、とてもなつかしい、いとしい気持ちだけが、ここに持って帰れたものなの」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに