ハトのオイボレ、最後の冒険(8/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「きれいだろう? だけど、あれは魚いっぴき住めない毒の水。死の湖なんだ」
いつの間にか、また、マママガモがそばに来て、言いました。
「ここが蔵王のてっぺんだよ。あんたとは、ここで、お別れだ。私たちは、もっと先まで、行かなくちゃならないからね。じゃあ、さようなら。うまくやりなよ。グェー、グェー!」
マママガモが、少し東に方向を変え、飛び去って行きます。
グェー!グェー!っと、ほかの仲間も続きます。

「さようなら、ハトのおじいさん!」
「太陽王に会えますように!」
などと、口々にあいさつもして行きます。
最初にオイボレとぶつかりそうになった子どものマガモも、声をかけてきました。
「ママがおじいさんのこと、『ドバトにしちゃ、ガッツがある』って。おじいさん、ママに気に入られたんだよ。『鳥たるもの、最後までほこり高く』ってのが、ママの口ぐせだからね。じゃ、さようなら」

「ぶつかりそうになって、すまなかったね」
オイボレは、やっと、これだけ、言葉を返しました。
マガモの助けで、どうにか、ここまで来られたものの、もう、いくらも力が残っていなかったからです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに