ハトのオイボレ、最後の冒険(6/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「トンビだ!」
オイボレは、すぐに、両のつばさをすぼめました。
そして、まっすぐ、地上めがけて、急降下し始めました。
トンビもすぐに追いかけてきました。

「どうやってふり切ろう?」
その時、ハトのよく見える目が、町の路地裏の、横だおしになったゴミバケツの回りに、カラスが群がっているのを見つけました。
オイボレは、まっすぐ、カラスの群れにつっこんで行きました。
あわや、地面にぶつかるという時に、めいっぱい羽ばたいて止まり、尾羽で地面をたたくようにして、体の向きを変えました。
次のしゅん間には、ハトは、もう、急上昇していました。
でも、ハトのようにすばやく方向を変えることのできないトンビは、まっとうに、カラスの群れのど真ん中に、取り残されてしまいました。

「なんだ、こいつは! おれたちの食い物を横取りしようってのか!?」
カラスたちは大さわぎになり、とんまなトンビを、よってたかって、追い立て始めました。
おかげで、オイボレは、トンビのつめからのがれることができました。
今度は、別の、めいわくな道連れを作ってしまいました。
カラスはかしこい鳥です。群れの中でもめざとい2羽が、オイボレのやったことを、ぜんぶ、見ていたのです。

「ハトのくせに、おれたちを利用するとはなまいきな! 思い知らせてやる!」
2羽のカラスはオイボレの方を追いかけ始めました。カラスは、トンビより、ずっと、小回りがききます。
オイボレが、カラスたちをかわそうと、どんなに急に方向を変えてみても、2羽は、ぴったりと、後についてきました。
思い切って高いところまで急上昇してみましたが、それもむだでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに