バイバイパンダパン(1/4)

文と絵・満月詩子

「ただいま。おなかすいたでしょう」
ドアが開く音と同時に聞こえた声に、結那(ゆいな)の顔がほうっとゆるみました。
お母さんが帰ってきたのです。

「ごめんね、今日お店こんでてね」
お母さんの仕事は、いつもは13時半に終わります。
ですのでお母さんは、小学校三年生の結那より、早く帰ってきます。

しかし今日は、お客さんが多かったのでしょう。時計は、15時40分を指しています。
結那は、秘密の場所にあるカギで家に入り、ひとりでお母さんの帰りを待っていました。

「大丈夫だよ。給食食べたから」
にっこり笑った結那のおなかが、ぐうっと音を立てました。
「もう。がまんしないでいいのよ」

お母さんは結那の頭をなでると、持っていた袋を開けました。
中には、少し形のくずれたクマやパンダのパンが入っています。
クマのパンは、はちみつ味、パンダの顔の中身は、あんこです。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。