バイバイパンダパン(2/4)

文と絵・満月詩子

そのときです。
アパートのドアのカギを回す音が室内にひびきました。
キッチンが玄関に面している作りのアパートなので、結那(ゆいな)たちから、カギが回る様子は直接目に入ります。

「結那、パン、袋にもどして。お出かけ用のバックに入れて」
お母さんの緊張した声に、結那は急いでパンをしまい、背すじをのばしました。

「腹へったなぁ、何かないか?」
ドアを開けたのは、結那のお父さんでした。
「あら、あなた。お仕事、今日早かったのね」
お母さんは、急いで玄関先に向います。

「はあ? おまえ、ばか? 外回りに決まってるだろう。おれは優秀だから、5時までに戻ればいいんだよ。それともなに? おれが帰ってくると困ることでもあるわけ?」
お父さんは、首をななめにかたむけ、たたみかけるように言葉を重ねます。そして、お父さんのスリッパを出そうと背中を向けたお母さんに、「チッ」と舌をならしました。

お父さん、機嫌悪い・・・。
「・・・ご、ごめんなさい」
お母さんは急いでスリッパを並べました。そしてキッチンに立つと、ごはんを作り出しました。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。