ピイの飛んだ空(2/8)

文・七ツ樹七香  

「うわ! お父さん、なにこれ気持ち悪い!」
「スズメのヒナだ」
「スズメ?」
父親の意外な言葉にまゆを寄せ、秋斗(あきと)はもう一度おそるおそる箱をのぞいた。
すこしグロテスクではあるが、よく見れば確かに鳥の形をしている。

ちいさなはげ頭についた大きな目はとじられていて、羽根の生えそろわないツバサは、まさにちいさな手羽先だ。秋斗がそっと父の手をゆすると、お母さんとにらみ合いながらその箱を秋斗にわたしてくれた。

「・・・どうして持ってきちゃったのよ!」
「どうしてって、かわいそうじゃないか。巣だってこわされてるんだぞ」
「人間の営みの中に巣をつくるってことまで、スズメにとっては自然の内でしょう。いろんなアクシデントで命を落とすことはあるものよ」
「けどな、生きてるんだぞ。言われた通り、箱に入れて近くの木にかけといたけど、親だって来なかった」
「かわいそうだとは思う。私だって助けたい気持ちもある。でも、人の手を加えるべきじゃない」

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。