ピイの飛んだ空(4/8)

文・七ツ樹七香  

禁止されていると聞いたとたんに、お父さんの顔が険しくなった。
風向きのまずさを感じて、秋斗(あきと)は息をころす。このままじゃ、ヒナは親も巣もないところに、たった一羽で放り出されてしまうんじゃないだろうか。そうなりかねない。だってお母さんは最初から見すててしまった方がいいようなことを言っていたじゃないか。

「弱ったな・・・」
「お母さん、だからこれ、オレが育てるから!」
ほほに当てられていたお母さんの手をぐい、と引いて秋斗は主張した。当然、雷が落ちる。
「かんたんに言うんじゃないの! 命をあずかるのが、どういうことかわかってる?」
「でも、放り出したら、死んじゃうじゃないか!」
「そうよ。でもそれはおかしいことでは全然ない。自然の中で生きるからには、病気をしたり事故にあったりして死ぬのは当たり前なの。他の生き物に食べられることだってある。もしかしたら、秋斗にはまだむずしいかもしれないけど。人間が手を出すことは、その生き物を食べて命をつなぐはずだった生き物を殺すことかもしれないのよ?」
「・・・でも、こいつはオレが育てたい」

母の言いたいこともわかる気がしてきた秋斗は、少しだけ言葉をさがしてうつむいたが、もう一度はっきりと言った。
「・・・本当に世話をする気?」
「うん。ちゃんと野生に返すから」
「お母さんは手伝わないよ。このくらいの小鳥のヒナは、ほんのささいなことでも死んじゃう。そういう覚悟(かくご)本当にできる? 秋斗が投げ出したら終わりなんだよ?」

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。