ピイの飛んだ空(6/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

ショックは大きかったが、不思議なことに一度やってしまえば、どうにかなってしまうものだった。苦手なクモだってかんたんに手づかみできるようになったのだからおどろきだ。

「おおう・・・お前、なかなかバイオレンスなことやってるな。いい母ちゃんだ」
3匹のバッタの長い足を手早くむしる息子の手元をのぞきながら、お父さんがブルリと背中をふるわせた。
「うん、ピイは、こうした方が食べやすいんだ。ケガしないようにしてるんだよ」

秋斗が母親業をやりとげる決意をしてから、ピイが食べられるものは次々増えた。家の中を飛んでいた小さなハエや、ハエトリグモもいいごちそうだった。
外に出れば夏とお母さんの庭が秋斗の食料調達を手伝ってくれて、バッタはもとよりコオロギや名前も知らない虫まで、十分なエサを毎日調達することができた。

そんなさなか、あのカメムシ事件は起きたのだが、それをのぞけばおどろくほど順調にピイは育っていった。
「よし、いいフン!」
小さいメモ帳に定規で線を引いて作った、秋斗の子スズメ健康チェックはいつも二重丸だった。

(本作品は「第30回日本動物児童文学賞」優秀賞受賞作を一部平易に改稿したものです)

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/