ピイの飛んだ空(7/8)

文・七ツ樹七香  

「信頼(しんらい)されてるな」とお父さんが感心してつぶやいたのに、少しこそばゆい気持ちで秋斗は胸を張った。ピイが秋斗のことをちょっとだけ特別に思ってくれているのがうれしかった。ピイは、お父さんがお母さんの目をぬすんで指を差し出しても警戒(けいかい)してさえずらない。急いでケージのはしににげてじっとしている。
そして、お母さんが訪れるといつもとちがうとがった声をあげて威嚇(いかく)した。

「お母さん! なんでそんなことするの! ピイがビックリする!」
「ビックリさせてるのよ。人間なんてこわいものなんだから」
ワッと大きく手を広げ、まるでおそいかかるみたいにして、お母さんはピイを怖がらせた。これは大事なことだとお母さんはいうが、いじめているみたいだと秋斗が本気でおこることもしばしばだった。
黄色いふちどりのくちばしは相変わらずだったが、子どもの印とはうらはらにおどろくべきスピードでピイは育っていった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。