ピイの飛んだ空(7/8)

文・七ツ樹七香  

そんなある日の日ぐれ前のこと。
げんかんを飛び回るのにいそがしいピイを置いて、秋斗が外へ虫を取りに行こうとした時のことだった。
サンダルをはいて戸を開けると、秋斗の耳のそばをヒュッと何かが飛び抜けていった。
何かではない。
もちろんそれは――。

「ピイ!」
視線(しせん)でしか追いかけられなかった。弾丸(だんがん)のように飛び出したヒナが、あちこちにぶつかりながら遠くを目指して飛んで行く。
「ダメだ! ピイ!」

むじゃきでこわいもの知らずの子スズメに、引き止める言葉が通じるはずもない。秋斗はドアに手をかけて、ぼうぜんと立ち尽くすしかなかった。
「どうしたの秋斗」
さわぎを聞きつけたお母さんがげんかんにかけつけると、秋斗は声にはじかれたようにお母さんを見た。

「ピイが・・・」
「外ににげちゃったの? まだ巣立つには――」
言いかけたお母さんは、顔色を失った秋斗を見て口をとじた。
あっけない別れだった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。