ペンギンのアディ(6/10)

文・伊藤由美  

モルテンは、アディの前に、口から、何かを、ポトンと、はきだしました。
つやつやした、黒い石です。
「これは?」
「スクアノタカラっていう宝石だよ。モルテンを名のるトウゾクカモメだけが、使いこなす力を持っているんだ。ぼくの前は、父さんモルテンが、その前はおじいさんモルテンが名人だったんだ。これを取りに行くのに、すごく、時間がかかったんだよ」

「そんな、すごい石なの?」
「ああ。君の願いをかなえるには、これを使うしかないと思ってね。ところが、これが見つかるのは、世界で、ただ一か所だけ。ここから、ずうっと南に行くと、岩ばっかりの、カラッカラにかわいた谷がある。
こことは比べ物にならないくらい寒くて、たまに雪解けの湖はあるけど、冷たすぎて、魚は、いっぴきも、いないんだよ。だから、行きも、帰りも、はらぺこ覚悟さ。そこにきみょうな塩の池があってね。スクアノタカラは、その池の底にかくされている。
だけど、池には、ツンツン、塩のはりがつっ立っているから、その底から宝石を取るには、はりをやわらげるためのじゅ文がいるのさ。モルテンの一族だけに伝わる特別なじゅ文がね」
「ふうん。モルテン家って、すごいのね」
「まあね」
モルテンは得意そうです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに