四郎とオレ(7/7)

文・中村文人  

一年後、あたたかなそよ風が吹く春の日。
「みなさーん、こちらは『心の電話相談室』です。ぜひお立ち寄りくださーい」
オレは、マイクをにぎっていた。
ここはJR大阪駅前。大型バスの前にテントが立てられ、多くの人がイスにすわって順番を待っている。
オレは中学受験で希望校に受かり、春休み真っ最中だ。今は心の電話相談室のボランティアとして、四郎といっしょにバスで全国をまわっているのだ。
社長の和田さんは、あのできごと以来、四郎の能力をいかして、なんとか世の中に役立たせたいと考えていた。それをこんな形で実現させたわけだ。
どの土地に行っても、おすな、おすなの大にぎわい。大きな悩みから小さな悩みまで、大人も子どもも、みんな四郎と話をして元気になってくれるのだ。
「よう、四郎! きょうもすごい人やな。あんまりはりきりすぎんなよ」
きゅうけい時間にオレは、四郎の様子を見にバスにのりこんだ。
バスの中はゆったりしたイスがひとつ。その前に四郎がおかれているだけなので、広く感じる。
「だいじょうぶや、幸平くん。新宿東口から出たことなかったけど、いまはこのバスでどこでもいける。この部屋はゆったりして、しかもぼくの大好きなグリーンで統一されているから、疲れなんか感じへんわ」
「そやな、静かな音楽が流れていて気持ちが落ち着くな。オレも四郎といっしょにいれて毎日楽しいで」
オレはイスにすわった。
「毎日が楽しい? それはぼくだけのせいとちがうやろ」
四郎は受話器をカタカタ鳴らした。
「なんやねん、そのいいかたは」
「かくさんでもええって。この間から参加してくれてるボランティアのあの女の子、幸平くんが好きや、いうとった子やろ」
「・・・」
「ほーら、当たりや。顔が真っ赤やで」
「こら、からかったらあかん。たしかにそうや。東京に引っ越してから、ずっと会えんかったから、連絡したんや」
オレは頭をかいた。
四郎7話「ちゃんと彼女には告白したんか?」
「いや、まだちゃんとは・・・」
「そらあかん。はよう、コクらな」
「そんな、急にいうても」
オレはまた頭をかいた。
「いまや、幸平くん、春休みが終わったらまたしばらく会えへんで。幸平くんの思いをちゃんと伝えんと。さあ!」
四郎はオレをせかした。音楽がスローなラブソングに変わった。
「う、うん」
オレはバスをおりて大きく深呼吸した。
そしてオレは彼女のもとにゆっくりと近づいた。
(おわり)