心のキュンとする音が聞こえる

まいごのペンギン書影まいごのペンギン
オリヴァー・ジェファーズ 作・絵
三辺律子 訳
ソニーマガジンズ

「この絵本、好きなんだ」
まだわたしが絵本を描き始めたばかりだったころ、友達が言った。
シンプルでスタイリッシュな絵柄、優しい色遣いなのにどこか寂しげな雰囲気の表紙は、どうも中身をのぞきたくなる。
そのころ、ちょうど初めて親元と離れ、日本を出て海外で暮らしていた。
たくさんの新しい友だちに囲まれる毎日で、寂しさなんて感じていないはずだったが、心の奥底にある「寂しさ」という感情は、もしかしたら埋もれていただけだったのかもしれない。
気づかぬうちに、まいごのペンギンに自分を投影していたのだ。

まいごのペンギンは、悲しそうな表情で登場する。
男の子は、ペンギンのおうちを見つけてあげようといろいろと協力するが、ペンギンの表情はいっこうに晴れないまま。だってそう、悲しい表情にかくれた本当の意味は、ちがうところにあったから・・・。
淡々と流れるイラストに、心が静かにストーリーへと傾けられる。

誰もがみな、このペンギンなのかもしれない。
誰もがみな、この男の子のような存在を必要としてるのかもしれない。
人は一人で生きていると誰かは言うけれど、人はみな、属する場所が欲しいものだと思う。
それは安心感と肯定感と、この絵本のラストシーンにある、大切なものが必要だから。
そうでないと、このペンギンのような表情に、なってしまうのではないかな。

相手と心が通じ合うことの嬉しさも伝えてくれる。
特にこの絵本で素敵なのは、人間の男の子とペンギンの間柄が描かれているところ。
未知の相手と分かち合うのは、簡単なことではないと思う。
難しいことでもないけれど、特に大人になるにつれて、知っている情報量の多さや、自己のこだわりが築きがっていくにつれて、いろいろな思いが絡み合って心の中に渦めいているものだ。
本当は、”目の前の相手を知る”というシンプルな本質なのに、絡み合ったこの思いのせいで、相手との分かち合いを複雑にしてしまうのだ。
こだわりから解放され、心が通いあったと思える瞬間は誰もが温かいものを感じ、涙が出そうになることだろう。

作者のオリヴァー・ジェファーズは、ニューヨークで暮らすアーティストである。
彼の作品はどこか切なげで、それでいてどこかユーモラスがある。
この絶妙なアンバランスさが、世界中の子どもたちを、そして大人をも惹きつけているのだろう。
この絵本に出会い、「こんな作品をつくりたい」と想うようになった、わたしのように。

かなこ すぷらうと について

埼玉県生まれ。社会人になった後、1年間暮らしたNewZealandでたくさんの自然に触れたことをきっかけに、絵を描くことを志す。帰国後は絵画教室に通い、児童デイサービスで働きながら絵本づくりやイラスト制作を続ける。空気の匂いや温度のある絵を描けるように勉強中。現在はアメリカ在住。 Twitter : kanacosprout