春を泳ぐヒカリたち(2/11)

文・高橋友明  

――べにちゃんのわからずや、おたんこなす! ネクタイなんてだめだめだよ! いいとこなんて本当はこれっぽっちもないのだから! 早く気づいて!

でもけして口には出さない。出せない。なぜならそんなことをいったら、べにちゃんは、きっとひどく悲しむと思うから。
それにぼくを嫌いになるかもしれない、それだけは絶対の絶対にいやだ。
「うん、ネクタイは男から見たって、魅力的だよね。べにちゃん見る目あるね!」

ぼくの舌は、けして天国へは行けないだろう。うそ1千万回の罪で、閻魔(えんま)さまに1千万回、舌を抜かれるだろう。
でもいいんだ・・・。
こうしていれば、べにちゃんは五月の木漏れ日を浴びているみたいに、ほがらかな笑顔を見せてくれるのだから。
これくらいの嘘は、なんでもないと思った。

「さっすが、たけちゃん!わかってるねー!!」
たけちゃんというのは、ぼくのことだ。
ところでぼくのべにちゃんは、ぼくんちの狩野(かりの)クリーニングの隣にある、小竹(こたけ)書店の一人娘である。

狩野 竹春(かりの たけはる)。
小竹 紅緒(こたけ べにお)。
ぼくらは幼なじみってわけさ。

高橋友明 について

千葉県柏市在中。日本児童教育専門学校卒業。 朝昼晩に隠れているその時間ならではの雰囲気が好きです。やさしかったりたおやかであったり、ピリッとしていたりする。 同様に春夏秋冬や天気や空模様も好きです。 そうしたものを自分の作品を通して共感してもらえたら幸いです。