水のお城(2/6)

文・伊藤由美  

アルセイダは、いそいそと結婚の準備をし始めました。
まずは、森中の木々や草花、動物から虫にいたるまでに、
「私の夫となるディドー王子をこんりんざい、傷つけないこと」
と約束させました。
それから、ディドーが森の木々のようにふつうの人間の何十倍も生きられ、その間、いつまでも変わらず、若者でいられるように強い魔法をかけました。

最後には、水晶玉に両手をかざして、命じました。
「この者はわが夫。傷つけることなかれ! すべての邪悪な物より守るべし!」
水晶玉はまぶしい光を放って、「承知」と答えました。
こうしてすべての準備がととのい、明日こそが結婚式という日の夜、ディドーは、やすらかな寝息をたてているアルセイダのまくら元から、水晶玉をうばってすがたをくらましたのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに