水のお城(4/6)

文・伊藤由美  

次の日、夕食の前に、それを王妃の部屋に運びこみ、寝台の上に置いてから、その中に、水を、いっぱいに、そそぎこみました。
すると、どうでしょう! ひつぎの中に美しい花々が現れて、ゆらゆらと、あやしげに、ゆれたのです。

その夜、ディドーは、めし使いたちを、みな、下がらせて、自分の手で、王妃のグラスにワインを注いだり、お皿にごちそうを取り分けたりしました。
「愛しい妻よ、たんとおあがり」
だれも、ディドーが、そっと、なみだをふいていることに気づきませんでした。
食事が終わると、ディドーは、王妃の冷たい額に口づけして、
「先に行ってお休み」
と言いました。

王妃は、何も疑うことなく、席を立ち、自分の寝室に入りましたが、寝台の上に美しいガラスのひつぎを見つけると、矢もたてもたまらず、その中に入って、ぐっすり、眠ってしまいました。

しばらくして、やって来たディドーは、急いでひつぎのふたを閉め、カギをかけました。
そして、窓を開け、そのカギを、さんの上に置きました。
すると、どこからともなく、大ガラスがやってきて、カギをくわえて、どこかへ飛び去ってしまいました。

「ああ、もう、これで、取り返しようがない」
王はため息をついて、窓を閉めました。
それから、王妃の部屋にカギをかけ、以後、だれもその部屋には入らないよう、お城の人々に、きつく、命じたのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに