猫アンテナ狂想曲(13/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「なにをするっ!」
見ていたが丸顔が気色ばむ。
「あっ、つい」
なにもするつもりなんてないけれど、丸顔に肩をつかまれて、合気道の鍛錬のたまものか、体が勝手に動いてしまう。

すらりとした男の人より、丸顔の方が、力はありそうだ。
と、オレはつかまれた感覚で判断した。
が、相手の力を利用して闘えばいいだけのこと。
いやいや、落ち着け、オレ。
別に、闘う必要はない。
のに、にも拘らず、横から、
「アチョー!」
の声が飛ぶ。

声を発したのは、猿神さんだ。
ブルース・リーの、あの有名なファイティングポーズをとり、戦闘態勢に入っている。
「アキラから、手を放せ。でないと、ワシのヌンチャクが、高速回転するぜ!」
すると、丸顔は、にやりと笑ってスーツの懐に右手を入れた。

取り出したのは、・・・コイン?
銭形平次みたいに投げるつもりだな。
武器を出されたからには、やるしかない。
戦闘開始だ。

「やめるんだ、犬田くん」
すらりとした男の人が、叫ぶ。
しかし、
「いえ、自分にお任せを」
丸顔犬田にやめる気は、なさそうだ。

猿神さんのヌンチャクが高速回転し、
オレの蹴りが犬田に向かい弧を描き、
そして、犬田が、コインを、掲げた。
ゆらゆらゆらゆら、コインが揺れる。
なーんだ、投げないんだ・・・。
ひもが、ついてたのかー・・・。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。