猫アンテナ狂想曲(4/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「この雪道だから、目的地までは車で15分、歩きで30分ってところだな」
「歩き、ですか?」
「あのな、アキラ、ワシのキャロちゃんは、20年以上、頑張って働いているんだ。そんなキャロちゃんが、バッテリーを上げずに、この雪道を走れると思うか?」
って、そんなもん、知らんがな!
「それに、キャロちゃんはマニュアル車だぞ。パワステも付いとらんから、ハンドル操作に力がいるぞ」
って、それも、知らんがな!
オレにわかるのは、キャロちゃんがとってもレトロな車で、持ち主の性格同様、ややこしそうな車であるらしいということだけだ。

「目的地までは、跨線橋を越えたり、ガードをくぐったり、坂だらけじゃないか。跨線橋にもガード付近にも信号はある。赤になれば止まるだろう?」
「青になれば、発進ですね」
「バカか、おまえは! 冬のキャロちゃんに、坂道発進が出来ると思うか?」
「できない、んですか?」
「当たり前だ!」
この人と話していると、頭がクラクラしてくる。

クラクラする頭で、オレは考える。
どうすれば、話が円滑に進むのか?
「バウン、バウンと激しく身震いしながら、坂道をズルズル下がり、後続車にぶつかるのが関の山。そんなキャロちゃんに」
「坂道発進をさせては、いけません! キャロちゃんが、かわいそうです! さあ、出動しましょう! 歩いて!」
「よし、助手1号、出動だ!」
「はい!」
オレ、なんとなく、この人と話すコツみたいなものがつかめてきたかも?

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。