猫アンテナ狂想曲(5/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「おまえ、嘘はいかん。泥棒の始まりだ」
「えっ?」
「ハナちゃんは、にーとも、にゃんとも、鳴いていなかったじゃないか。それなのに、おまえは、桑本さんにも、丹田さんにも、嘘八百を並べただろう」
「いえ、ちゃんと聞こえました。ハナちゃんは、普通の人には聞こえない程の小さな声で、みーって鳴いていたんです」

「そうか。では、百歩譲って、ハナちゃんが、みーと鳴いていたとしてやろう。だがな、ワシのチャッピーの場合はどうだ? 推察するに、ワシが表でおまえに投げ飛ばされていた時、チャッピーはおこたの中で、まあるくなって寝ていたはずだ。わーんともエエエエッとも鳴き声は発していないはずだ」
「チャ、チャッピーのいびきが・・・」
「外にまで聞こえたと?」
猿神さんに詰め寄られ、オレは、自分のツメの甘さを思い知る。

写真をながめているだけで、その猫の居場所がふっと頭に浮かぶ。
こどもの頃、オレは、周りのだれもが、そういうものだと思ってた。
けど、違った。
どうしてそうなったのか経緯は忘れたけど、初恋の相手、芽衣ちゃんに話した時に、「うそーっ!」って爆笑されたんだ。
それ以来、この特殊な能力のことは、他人に明かさないことにした。
明かさなくても、辻褄が合うように、いつもはうまくやっている。

でも、今回は、どうもしくじったようだ。
猿神さんちにたどり着いた時点で、映画、『犬神家の一族』を思い浮かべてしまう場面に出会い、驚いてしまったのが敗因か?
はたまた、ややこしい性格の猿神さんから早く解放されたくて、事を急いてしまったからか?

「バカ言うな。おまえ、チャッピーが家にいるって、どうしてわかった? ワシを甘く見るなよ。とっとと白状してしまえ」
詰め寄った猿神さんにすごまれて、怖くはないが、白状してもいいや、そんな気分になってくる。
芽衣ちゃんに笑われたのはきつかったけど、猿神さんに笑われたって、痛くも痒くもなさそうだ。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。