猫アンテナ狂想曲(9/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコ

「大丈夫ですか? しっかりしてください」
「ふいっ、ふいっ、ふいっ」
「黒岩さん、救急車をお願いします!」

「アキラくん、心配ご無用。救急車は、必要ない」
「でも、こんなに息を乱して苦しんでいるじゃないですか! 早く!」
「落ち着いて見てみろ。猿神先輩は、ほくそ笑んでいるだけだ」
「えっ?」
ほくそ笑む、って?
まるで訳がわからないオレに、猿神さんはゆがんだ笑顔を向ける。

「アキラ、勝川市に行くのは、不便だぞ。まず福玉駅前までバスに乗り、福玉駅から3時間に1本しか出ていない福勝線で、一駅一駅停まりながら行くことになる。豪雪区域を通って走る福勝線は、冬はしょっちゅう運休になる」
「だから、ほくそ笑んでいたんですね! もう、まったく! 心配するんじゃなかった!」

「なにもそんなに怒ること、ないだろう。ワシだって、おまえを送ってやりたいが、キャロちゃんに過酷な雪道走行を強いるのはかわいそうだし。ここはひとつ春まで待たんか?」
「待ちません!」
そんなやり取りをしていると、
「ふたりとも、いい加減に、僕に話をさせてください! 肝心な話は、これからなんです!」
黒岩さんが、バンッとテーブルを叩いた。
「どうせ、先輩に命じられると予想して、僕は行ってきました、そこへは、既に。が、しかし、その住所に、中園さんの家はありませんでした。空地でした」

怪しい缶コーヒーを飲まされた丹田さんの家には、『売り家』の貼紙。
チャッピーの飼い主、中園さんの家はなく、そこは『空地』。
謎は、深まるばかりだ。

「万歳! これでワシは、チャッピーとずっと一緒だ!」
と叫ぶ猿神さんに、そんな場合ですか?
オレは、目で、問いかける。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。