私が童話作家になった理由:たからしげるさん

◆世に出す作品が増えていく
そのまま数年がたちました。あるとき、ある児童書出版社の編集者・Nさんと話をしていて、こんな質問を受けました。
「新聞社の通信部にいたそうですね。そこって、どんなところでしたか?」
ありのままを話すと、Nさんがいいました。
「通信部を舞台にした、子ども向けのお話をひとつ、書いてみませんか?」
「え、ぼくが書いてもいいんですか?」
「もちろんですよ。思いっきりおもしろく書いてみてください」

それで、仕事の合間をぬって書き始めたのが、架空の地方の、架空の新聞社の通信部で働く父と、小学生の息子が、コンビになってあっちこっちのふしぎな事件や出来事を取材して回るという設定の連作短編集の、しかもシリーズにしてくれるという第1巻でした。
題して『フカシギ系。①しゃべる犬』は1999年12月、ポプラ社から出ました。これが、作家としてのデビュー作です。翌2000年7月には、『フカシギ系。②そっくり人間』も出ました。

本の世界でいえば、市販の作品を1冊でも世に送り出すことができたら、それは作家として名乗りをあげたことになるのでしょう。ということで、気がついたとき、わたしは作家になっていたのです。
その後は、わたしの本を読んでくれた別の出版社の編集者が、うちでも書いてみませんか? といってくれたり、どこで出すとも決めないままに書いた原稿を、ある出版社の編集者に読んでもらって、うちで本にしましょうよといってもらったりしながら、世に出す作品の数が、少しずつ増えていきました。

もしあなたが、これから作家になろうと思っているなら、とにかくおもしろい本をできるだけたくさん読んで、人生の貴重な体験をいくつもいくつも重ねて、とにかく1日に最低1行でもいいから、文章を書くために頭をひねる毎日を送ることではないでしょうか。

ところで、わたしがこれまでに書いた本の中から1冊、書影を紹介してもらえるというのなら、「絶品らーめん魔神亭」シリーズ第1巻『森のおくでひっそり営業中』(ポプラ社)を、お願いしたいと思います。

このシリーズ、第2巻『初恋はとんこつみそ風味』、第3巻『ゴマダレ冷やし中華のわな』に続く第4巻の原稿を書き上げたとき、出版社から「本があまり売れていないので」という理由により一方的に、シリーズが打ち切られてしまいました。
したがって、第4巻『ひみつたっぷり黄金チャーハン』(仮題)は、手もとにそっくり原稿があるにもかかわらず、かれこれ10年あまりも、幻の続編になったままです。


◆プロフィール◆
たからしげる

大阪生まれの東京育ち。産経新聞社で記者として働いているときに作家デビュー。主な作品に『盗まれたあした』『みつよのいた教室』(小峰書店)、『ラッキーパールズ』(スパイス)、『プルーと満月のむこう』『想魔のいる街』(あかね書房)、『たそがれ団地物語 ふたご桜のひみつ』(岩崎書店)、『3にん4きゃく、イヌ1ぴき』『まぼろしの上総国府を探して』(くもん出版)、『ガリばあとなぞの石』(文溪堂)ほか。訳書に「ザ・ワースト中学生」シリーズ(ジェームズ・パターソン著、ポプラ社)などがある。