3つの願い(5/5)

文・伊藤由美  

しばらくして、西の魔女が聞きました。
「時に、あんたが世界の東半分を与えてやったあの男・・・名前は、何だったかねえ」
「テムチンのことかい? あれは、まだ、わが家の台所で、大なべの番をしているよ。かれこれ400年になるが、年季明けは、まだまだ、先だよ」
東の魔女は、ククッと、笑って、得意そうです。

「そういえば、ほら、あんたの方にも、世界の西半分を与えてやった男がいただろう? あの大悪人はどうしているんだい?」
「アレクサンドロスなら、もう、2000年も、魔王様の使いっぱしりさ。思えば、いい時代だったねえ。人間たちは、今より、ずっと、望みが高くてさ。あたしらも、魔法の使いがいがあったってもんだよ」
「ああ、ほんとにね。いまどきの人間は、どうも、こころざしが低くていけない」
魔女たちは、「うんうん」とうなずき合います。
「だが、また、いい時もあるさ。あんたも、気を落とさないで、また、いいえものを探せばいいよ。魔女は、いつになっても、修行さ」
「まったくだ。奥が深いね」

こんなことを言い合いながら、地獄へと下りて行く魔女たちの後を、死人たちの列が、よろよろ、ついて行くのでした。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに