2億4000万分の一のキセキ!(11/11)

文・ニケ  

 さて、いよいよ待ちに待ったオーディションの朝になりました。会場までダイアンのお父さんの車でいっしょに行く予定です。
いつもより早く起きたソラは、朝ごはんをしっかり食べ、歯みがきをていねいにし、鏡に向かってスマイルの練習をしました。
「よし! 大じょうぶ! がんばれ!」
鏡の中のソラにソラが喝をいれていると、
「ソラ、ちょっと来て」
と、リビングからママのしずんだ声が聞こえてきました。

リビングに行くと、ママとパパが心配そうにソラを見ました。
「ダイアン、ねんざしちゃったらしいの」
「・・・」
キョトンとするソラ。びっくりしすぎて声がでません。
「パパの車で行こう。忘れ物はないか?」
パパがソラのナップザックを持ち上げました。ソラはあわててパパの手をおさえました。

「待って! ダイアンは?」
「うぅ・・・む」
パパは低い声でうなりました。
「ママ、ダイアンは行けないの?」
「ねんざしちゃったんだもの。ムリよ」
悲しい顔でママがうなづきました。
「よっし! ダイアンのぶんもがんばろう! さぁ」
パパがソラの手をひっぱろうとしたしゅんかん、ソラはその手をはらいのけました。

「ボク・・・行かない。行けないよ・・・」
ソラの声はふるえています。困ったなという顔でパパとママが目配せしました。
「ソラ、本当に行かなくていいのか?」
パパは念をおすように聞きました。

「・・・」
ソラは答えることができませんでした。
「ダイアンはそれで喜ぶのかな?」
ソラはパパの目をジッとみたまま、口をギュッと結びました。
「心の底からやりたいと思わないなら、やめなさい」
パパがさびしそうにほほえみました。

「ちがうの! パパ、ちがうの!」
ソラの真っ黒なひとみからなみだがにじみでました。時計の音がカチカチと、やたらに大きく聞こえています。
ソラがやめればダイアンは責任を感じてしまうかもしれません。でも、ダイアンがいたから苦しい練習もがんばれた。ダイアンがいなければ、ソラがオーディションにチャレンジすることはなかった。ソラだけ行くのはダイアンに悪い気がします。というか、ダイアンがいないなんて心ぼそい! 一人だけで行くなんてできるわけがないのです。

ニケ について

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(学術博士)。読んだ人がちょっとだけハッピーになる言葉を奏でます。