2億4000万分の一のキセキ!(3/11)

文・ニケ  

「もうっ! ソラッ、ちこくするわよ」
ママがソラの部屋に入ってきました。
「あら、どうしたの?」
ママはうずくまっているソラのおでこに手を当てました。
「お熱はないわね。サマースクール、行きたくないの?」
ソラはとっさにからだを丸めました。イモ虫がモゾモゾ動いて、おなかがキューっとしめつけられました。

もしかして、これがストレス?と、ソラは心の中で思いました。ストレスという言葉は、ママがよく使っています。
「ストレスで頭がいたいわ」
「ストレスでねむれないわ」
とふきげんな顔をします。
「あああ~~~っ、ストレスたまる~~!」
とソファに大の字にねっころがったりもします。ソラが「大じょうぶ?」と心配すると、「大人には色々とあるの。ソラも大人になったらわかるわよ」と決まって言うのです。

ソラがおなかを押さえていると、
「だれかにいじわるされたの?」
ママが心配そうに顔をのぞきこみました。ソラはカメのように顔をうでの中にかくしました。
「ソラ、どうした? 出発するぞ~」
パパが心配して入ってきました。ママはパパを見て、首を横にふりました。パパはうなづくと、ソラの手をそっとにぎりました。

「ソラ、もう1日だけがんばれないか?」
ソラはゆっくりと顔をあげました。
「今日1日だけ行ってみないか?」
「・・・1日だけでいいの?」
「ああ。今日1日だけがんばろう」
「うん・・・」
パパはソラの手を、やさしくひっぱりました。ゆっくりと立ち上がるソラ。もう、イモ虫は気になりません。
「ボク、1日だけがんばる!」
ソラはオレンジ色のナップザックを背負うと、階だんをかけ下りていきました。

ニケ について

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(学術博士)。読んだ人がちょっとだけハッピーになる言葉を奏でます。