2億4000万分の一のキセキ!(9/11)

文・ニケ  

大人への階段

「カムオン!!  タイガー!!!」
「ゴー、アラバマ! ゴー!」
「レゴー! アーバン!!!」
地鳴りがするような声えんが、アメリカンフットボールのスタジアムにひびいています。お兄ちゃんもパパも、ソラが聞いたことないような大声を張り上げています。グラウンドには、ガンダムのような大きな男の人たちが取っ組み合いをしたり、走ったり、追いかけたりしていました。

「きやぁぁ〜〜!!!」
ぶつかった人がはね飛ばされたしゅん間、ソラも思わず立ち上がって、大きな悲鳴をあげてしまいました。
アメリカンフットボールはソラが住むアラバマでいちばん人気のあるスポーツです。

「オレはアラバマ大学!」
「私はアーバン大学!」
といったぐあいに、町の人々はこの2つの大学のどちらかのファンに分かれています。パパとお兄ちゃんはアラバマ大学のファンです。おとなりのジョンおじさんといっしょに、いつも応えんに行っています。ジョンおじさんは、昔はアラバマ大学のアメフトの選手だったそうです。

その日、ソラはジョンおじさんに、
「ソラ、今日の試合は盛り上がるぞ! いっしょに行くか?」
とさそわれ、わけもわからずやってきました。ソラの「とりあえずイエス」は、アメリカに来てもうすぐ一年なのに続いていました。

でも、それは以前のように英語がわからないから「とりあえずイエス」と答えているわけではありませんでした。さそわれたときは「イエス」と答えた方が、知らない世界を知ってワクワクしたり、おもしろい発見ができたり、楽しい経験ができるからです。

今のソラは「パパのせいだー!」とワンワン泣いたのがうそみたいに、英語がペラペラになっていました。子どもが大人の話を理解できるようになる区切がわからないのと同じように、ソラもいつのまにか話せるようになっていたのです。人間ってふしぎです。どんなにつらい出来事も、やがて楽しい出来事にぬりかえられていくのですから。

ニケ について

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(学術博士)。読んだ人がちょっとだけハッピーになる言葉を奏でます。