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5月になると、いちのせ川には、どんぐりようちえんのこどもたちがつくった、たくさんのこいのぼりがおよぎます。
チューリップやくるま、女の子のわらったかお。いろいろなもようがあって、そばをとおる人は、それを見るのがたのしみでした。
タロウごい1場面CTMその中に、いっぴきだけ、こわいかいじゅうのえがかいてあるこいのぼりがありました。
たろうのつくったタロウごいです。
たろうは、たんじょう日にお父さんにかってもらった、お気に入りのかいじゅうのえをかいたのです。
お天気のいい日には、こいのぼりたちは、ゆったりと気もちよさそうに、ゆーらゆーらとおよぎます。
でもタロウごいだけは
「ガーオガオガオ、ガガッガ、ゴー。おいらはつよいぞ、ガーオガオ」
といいながら、ほかのコイノボリをおしのけながら、かぜにはためきます。
つよくていじわるなタロウごいは、みんなから、こわがられていました。
タロウごいは、いつも下をながれる川をのぞきこみながら、あのさかなたちのように、じゆうにおよぎまわりたいなとおもっていました。

ある、かぜのつよい日でした。
タロウごいをむすんでいたひもがちぎれ、タロウごいは、ひらひらと川におちて行きました。
「これで、オレもあちこち、好きなところに行けるぞ!」
タロウごいは、大よろこびです。
「なんだかへんなにおいがするなあ」
川におちてみると、ゴミがたくさんおちているし、くさいにおいまでします。
それでもタロウごいは
「ガーオガオガオ、ガガッガ、ゴー。おいらは強いぞ、ガーオガオ」
と、いばりながらおよいでいましたが、そのうちに、だんだんさびしくなってきました。
いままで、たくさんのこいのぼりのなかまたちといっしょだったのに、いまはひとりぼっちです。
ともだちがほしくなったタロウごいは、むこうからきた、小さな赤いさかなにあいさつしました。
「こんにちは、おいら、タロウごい」
けれども、タロウごいの、大きなあんぐりあいた口を見て、たべられるとおもった小さなさかなは、へんじもしないで、あわててにげて行きました。
ちょっとかなしくなったタロウごいでしたが、どこにだって行けるのは、気もちがいいなあ、とのんびりおよいでいました。

すると、とつぜん、「たすけてぇ」というこえがきこえてきました。
見ると、さっきあいさつをした、小さな赤いさかなが、大きなくろいさかなに、おいかけられています。
「たいへんだ!ガオガオガオー! オレはかいじゅうざかなだぞ! よわいものいじめしてるのは、だれだぁ」
くろいさかなは、タロウごいのおなかの、こわいかいじゅうのえを見て、びっくりしてにげて行きました。
「たすけてくれてありがとう。あなたって見た目はこわいけど、やさしいのね」
赤いさかなは、おれいをいうと、どこかにおよいで行ってしまいました。
タロウごいは、これまで、ほめられたことなんてありませんでしたので、ちょっとはずかしくなりました。
「えへへ」
タロウごいはちょっとてれて、また、およぎはじめました。

まいにち、七ひきもの子どものせわは、たいへんです。つかれもあってか、ある日、メイヤがびょうきになってしまいました。
ガブリは、『今日こそ、ヤギをおなかいっぱいたべてやるぞ』とおもいながらも、子どもたちにごはんをつくっているうちに、そのことをわすれてしまいます。
それに、ごはんをいっしょにたべているうちに、おなかもいっぱいになってしまうのでした。
メイヤがよくなるまで、ガブリはてつやでかんびょうしました。
メイヤがねこんで三日目のよなかのこと。おなかのすいたガブリは、こんやこそ、メイヤをたべようと、大きく口をあけました。
オオカミガブリ4場面
そのとき、ゆめをみていたメイヤは、ねごとをいいました。
「ガブリさん。ほら、あそこにもピンクのお花がさいているわ。きれいねえ。ここでおべんとうをたべましょうか」
そうして、にっこりほほえんだのです。
ガブリはおもわずあけている口をとじました。
あけがた、メイヤが目をさますと、ガブリがベッドのよこのいすにすわって、うつらうつらしているのが目に入りました。
《私のかんびょうまで、こんなにいっしょうけんめいしてくれる人なんて、ほかにはいないわ》
そうおもいながら、ガブリのねがおを見つめました。
《でも、ガブリさんはオオカミ・・・》
そんなことをおもっているうちに、メイヤはまたねむってしまいました。

おひるすぎのことです。ねつも下がったメイヤは、ようふくにきがえました。
「もうすこし、ねてたほうがいいんじゃ」
「もう、だいじょうぶ。ガブリさん、ほんとうにかんびょうありがとう」
じっとガブリを見つめていたメイヤは、おもいきってガブリにいいました。
「もしも、もしもなんですけど、よかったら子どもたちのおとうさんになってやってくれませんか」
ガブリはいっしゅんぽかんとしました。
「ヤッター、ガブリさんがおとうさんだ!」
ガブリは、子どもたちの大よろこびするこえにおもわず
「はい、ぜひ!」と、へんじしていました。
それからというもの、ガブリは、メイヤと七ひきの子ヤギたちと、しあわせにくらしました。
いまでもヤギをたべたくなることのあるガブリですが、そのたびに、それをわすれてしまうできごとがおこるみたいですよ。

いえができあがると、まいにち、ガブリは子どもたちにあいに行くようになりました。
でも、子どもたちとあそぶのがたのしくて、ついたべるのをわすれてはかえるのでした。

ある日のことです。
ガブリをすっかりしんようしているメイヤは、ガブリにるすばんをおねがいして、出かけていきました。
ゆうべおそくまでおきていた子どもたちは、あそんでいるうちにねむくなりました。
「さあさあ、みんなひるねしろよ」
ガブリは、子どもたちをベッドにつれて行きました。
よっぽどつかれていたのか、子どもたちは、すぐにスースーねいきをたてはじめました。
「なんてうまそうなんだ」
子ヤギたちのねがおを見ているうちに、ガブリのよだれがポトポトポトとおちました。
「もうガマンなんねえ」
そういってガブリはすえっ子の手をパクリ。
「アチチチ。な、なんだあ。」
口に入れた子ヤギの手が、もえるようにあつかったのです!
「大へんだ! ねつがある!」
またまたガブリは、子ヤギをたべることをすっかりわすれ、川までつめたい水をくみにはしりました。
なんどもなんども、ガブリがタオルをかえてやったおかげで、子ヤギのねつはすこしずつ下がっていきました。
いえにかえってきたメイヤは、どんなにガブリにかんしゃしたことでしょう。
そうして、ガブリは、ますますメイヤや子どもたちに、しんらいされてしまったのです。

そのうち、メイヤもいえの中のことを、いろいろガブリにおねがいするようになりました。
「ガブリさん。あのでんきゅうをとりかえてくださる?」
オオカミガブリ3場面
でんきゅうをとりかえて、メイヤがあんしんしたところを、ガブっといただこうとおもったガブリは、そのしごとをひきうけました。
でも、子どもたちが、はしごをおもしろがってゆらすものですから
「や、やめてくれぇ」と、さけんでいるうちに、メイヤをたべるのを、すっかりわすれてしまいました。
「ガブリさん、へやのもようがえをしたいの。このはしらどけいをうごかしてくださる?」
とたのまれたときも、はしらどけいのあまりのおもたさに、メイヤをたべるのをすっかりわすれてしまったガブリでした。
そのうちに、メイヤの「ありがとう」が気もちよくなったガブリは、ついたべるのをわすれて、メイヤのたのみごとを、いそいそとうれしそうにやってしまうのでした。

「おえかき、したい!」
一ぴきの子ヤギがそういうと、みんなも「やるやる!」とクレヨンとおえかきちょうをもってきました。
「オオカミさんがかきたい!」
男の子のヤギも女の子のヤギも、ガブリといっしょにあそんでいるえをかきました。どのえも、ガブリがえがおで子どもたちとあそんでいるえです。
「オオカミさんにプレゼント!」
そういうと子ヤギたちは、つぎつぎとガブリにえをさし出しました。
《なんておいらはしあわせそうなかおをしているんだろう》
子ヤギたちのえを見ているうちに、ガブリはポロリとうれしなみだをこぼしました。

「ねえねえ、こんどは、わるものごっこしようよ。オオカミさんがガオーってぼくたちにいって、ぼくたちが、おもちゃのピストルでうつマネをするから、オオカミさんはたおれてね」
「ガオーっ」と、ガブリが大きなこえでおそいかかるふりをすると、子ヤギたちが
「バキューン。バキューン」といいながらピストルでうつマネをします。
するとガブリは
「や、やられたあ」と、バタリとたおれます。
子どもたちは大よろこび! おなかをかかえてゲラゲラわらっては、なんどもなんどもせがみます。
そうしてガブリが子どもたちとたのしくあそんでいたときに、子ヤギたちのおかあさんがかえってきました。

「ガオーっ」
オオカミが、子どもたちをおそおうとしているではありませんか!
びっくりしたおかあさんヤギは、だいどころから大いそぎでフライパンをもってくると、オオカミをやっつけようと、ふりあげました。
それを見たガブリは、びっくりして、おもわずしゃがみこみました。
「あっ、おかあさんなにするの! ぼくたち、オオカミさんとあそんでるんだよ」
「なにいってるの! オオカミはおまえたちをたべてしまうのよ。いつもえほんをよんであげていたでしょう」
そういいながら、おかあさんヤギがふとテーブルの上を見ると、たくさんの子どもたちのえが目に入りました。
どれも、やさしそうなオオカミが、たのしそうに子ヤギたちとあそんでいるえです。
オオカミガブリ2場面
「まあ、オオカミさん。ごめんなさい。子どもたちとあそんでくださっていたんですね。わたしとしたことがどうしましょう」
おかあさんヤギは、あやまりながら、ガブリをたすけおこしました。
ガブリはおかあさんヤギのことばに、子ヤギをたべに来たことをおもい出しましたが、
さっき、フライパンをふりあげられたことをおもいだして、やさしいことばは、ワナかもしれないと、ドキドキしました。
「これからおやつのじかんですから、オオカミさんもごいっしょにどうぞ」
おかあさんヤギのことばにほっとしたガブリは、子ヤギたちと一しょに、ドーナツをたべました。《ワイワイガヤガヤ、にぎやかにみんなでたべるのって、こんなにおいしいんだな》と思いながら。

「そろそろかえらなきゃな」
ドーナツをたべおえたガブリがいうと
「いやだ。まだかえらないで!」
子ヤギたちは、みんなで足にまとわりついて、はなしません。
「オオカミさん・・・。あら、まだお名まえをおききしてなかったわ。わたしはメイヤっていいます」
「おれさまはガブリ」
「ガブリさん、ぜひまた子どもたちとあそんでやってくださいね」
森をあるきながら、ガブリは子ヤギたちをたべるのをわすれたことをおもい出しました。
《こんどこそ、あのやわらかそうな子ヤギたちをたべてやるぞ》とおもったガブリは、子ヤギたちのいえから、そうとおくないところにいえをつくりました。

あるところに、ガブリというわすれんぼうのオオカミがいました。
ガブリには、ヒーローとあこがれるオオカミがいました。
それは、小学校のきょうかしょにのっていた『オオカミと七ひきの子ヤギ』の中に出てくるオオカミで、ちえをしぼって七ひきの子やぎをぜんぶたべてしまったオオカミでした。
もしかしたら、みんなのしっているおはなしとは、ちがっているかもしれませんね。

ある日、ガブリは《そろそろこの森にもあきたなあ》と、たびに出ることにしました。
ずんずんあるいていると、青いやねのいえが見えてきました。
いえの中からは、にぎやかなこえがきこえてきます。
まどからのぞくと、なんと七ひきの子ヤギがあそんでいるではありませんか!

《こ、これは、えほんでよんだ、あのあこがれのおかたとおなじばめんじゃないか!》
ガブリのしんぞうが、きゅうにドキドキしはじめました。
《えーっと、えーっと。なんだったっけ? たしか、さいしょはトントンってドアをたたいて、こなで白くした手を見せるんだっけ? いや、あめだまをなめて、きれいなこえにするんだっけ?》
なにげなくドアに手をかけたとたん、ギーッ、なんとドアがあいたではありませんか!
「えっ?」
ガブリは、とつぜんのことにあせりました。
子ヤギたちはあそびにむちゅうで、おかあさんが出かけたときに、カギをかけるのを、すっかりわすれていたのです。

子どもたちは、いっせいにあそびをやめて、ひらかれたドアを見ました。
「あっ、おかあさんがえほんをよんでくれたときに出てきたオオカミだ!」
みんなびっくり。そうして、はしらどけいにかくれていた1ぴきの子ヤギが、オオカミにたべられたほかの子ヤギをたすけたはなしをおもい出しました。
いつも、「おまえたちも、この子ヤギのように、かしこいヤギにならなくてはいけません」と、おかあさんからきかされていたので、子ヤギたちにとって、そのとけいにかくれた子ヤギは、ヒーローでした。
すると、われ先に、はしらどけいにはいろうと、子ヤギたちが、大ゲンカをはじめました。

「わたしがさいしょに、はしらどけいのとびらをあけたのよ」
「なにいってるんだい。ぼくが一ばんさきにとけいに足を入れたんだぞ」
七ひきもいるのですから、それはそれはたいへんなさわぎです。
「コラコラ、じゅんばんにならばないとだめじゃないか」
あまりのうるささにガブリは、おもわず大きなこえを出してしまいました。
そのこえに、みんなビックリ。
「さあさあ、じゅんばん、じゅんばん」
そういうと、ガブリは一ぴきの子ヤギをはしらどけいに入れてやりました。その子ヤギがまんぞくすると、その子ヤギをおろして、つぎの子ヤギを入れてやりました。
七ひきぜんぶを、はしらどけいに入れてやったころには、ガブリはクタクタ。
子ヤギたちも、オオカミはこわいものとおしえられたことをすっかりわすれて、ガブリのまわりにあつまってきて、「あそんであそんで」と、うるさいのなんの。

オオカミガブリ1場面
ガブリは、あまりのいそがしさに、子ヤギをたべることをすっかりわすれてしまいました。
一人っ子だったガブリは、ともだちとあそんだことがありませんでした。
みんなであそぶのは、なんてたのしいんでしょう。

落ち葉もんちゃんは はずかしくて、そこらじゅうに おちている、はぜの はっぱや、もみじの はっぱ、それに、いちょうの はっぱを いっぱい あつめて かおを かくしました。

「もんちゃん、なにしてるの?」
みんなが おいついて きて、もんちゃんの かおを のぞきこみました。
どうしよう、どうしよう・・・
もんちゃんは むねが ドキドキ してきました。
あそぼ、って いえばいいのに どうして いえないの、ぼくの ばか、ばか。

もんちゃんは、かおを かくしていた いろとりどりの はっぱを、えーいと そらに むかって ほうりなげました。
はっぱが ヒラヒラと そらから ふってきます。

写本 -sozai_39635「うわぁ、きれい!」
「これを わたしたちに みせたかったのね」
「だいじな ようじって これだったのかぁ」
もんちゃんは なにも こたえられずに はずかしそうに うつむきました。

「もんちゃん、ありがとう」
「だいじな ようじが すんだから、いっしょに あそぼう」
みんなに てを ひかれた、もんちゃんの かおが まっかに なって ほころんで います。
もんちゃんと みんなの わらいごえが、くるりんやまに ひびいて きました。(おわり)


Special Thanks to ILLUST BOX

くるりんやまの もんちゃんは、おさるの こ。
とても はずかしがりやです。
ともだちが ほしくて たまらないのに、みんなが さそいにくると、いつも おいかえして しまいます。

きつね「もんちゃん、あそぼ」
うさこちゃんが きました。
でも、もんちゃんは、
「ぼく、だいじな ようじが あるの。だから かえって」
と、うさこちゃんを おいかえしました。

「もんちゃん、あーそぼ」
きつねこちゃんと、たぬくんも やってきました。でも、もんちゃんは、
「ぼく、だいじな ようじが あるのっ! だから かえって」
と、やっぱり ふたりを おいかえしました。

たぬき「もんちゃんの だいじな ようじって、なんだろ」
「わたしたちも てつだおうか」
「ようじが はやく おわったら、もんちゃんと あそべるよ」
そして、みんなで こえを そろえて いいました。
「もんちゃんの だいじな ようじ、おてつだい することに したよ」

写本 -sozai_39636もんちゃんは こまりました。
だいじな ようじなんて、なにも ないのです。
どうしよう・・・と もんちゃんは かけだしました。

「もんちゃん、どこへいくの? まってぇ」
もんちゃんの あとから、みんなも ついて はしりました。
はしって はしって はらっぱをぬけ、ぞうきばやしに にげこむと、みんなも やっぱり ついてきます。
「もんちゃーん、まってぇ」
ついに いきどまりです。
(つづく)


Special Thanks to ILLUST BOX

その後、アカネはおばあちゃんにつれて行ってもらって、トオルと会うことができました。
「おばあちゃんに、すごくおこられちゃった」
「そうだよ、こんなに遠いのに、ひとりで歩いてこようだなんて。白ヘビさんが通せんぼしてくれたからよかったけど」
「通せんぼだったのかな? おこった顔して、ずっと『シャーッ』って言ってたよ」
「だって、だからアカネちゃん、家にもどったんでしょう? 白ヘビさんも、『危ないぞ、いくな』って、言ってくれてたんじゃないのかな。白ヘビさん、やっぱり神さまだったね」
トオルの言葉に、アカネの顔がぐしゃっとくずれました。泣きそうな顔でトオルをみつめます。
「アカネ、ヘビさんもお友だちじゃなくなったんだって思ったの。でも、そうだね・・・。ヘビさん、アカネをかもうとしなかった。おばあちゃんも、『ヘビは、敵しかかまないよ』って言ってた。それなのに、アカネ、ヘビさんに、『きらい』って言っちゃった・・・」
目から大きなしずくが、今にもこぼれそうです。アカネは、胸をゆっくりとなでます。
トオルは、「うーん」とうなると、
「じゃあ、白ヘビさんに、『とおせんぼありがとう』って言いに行こうか」
と、にっこりほほ笑みました。
トオルのあんに、アカネの顔が晴れわたります。
「うん、行く。でも、どこに? もう、シイの木のとこにはいないよ」
「あの田んぼは?」
「うん、そうだね。あっ、そうだ! アカネ、ヘビさんににあうリボンもってるから、それをプレゼントしたい!」

写本 -シマ吉をさがすアカネとトオルアカネとトオルは、次の休みに、シマ吉と最後に会った、町はずれの田んぼへ行きました。
「ヘビさ~ん」と何度もさけびましたが、シマ吉は姿をあらわしません。
二人は、青いリボンが風でとばないように石にはさむと、「白ヘビさんにとどきますように」と祈りながら、田んぼをあとにしました。
きいろいおひさまが、田んぼをやさしくてらしはじめたころ、シマ吉はあぜ道にのぼりました。
(あぁ、腹へった。あいつら、ちょこちょこと逃げ回りやがって・・・おや? なんだ?)
シマ吉は、あぜのすみの石の下に、青くキラキラと光るものを見つけました。光たくの美しい青いリボンです。リボンには、アカネのにおいがのこっていました。かすかに、トオルのにおいもしています。
(アカネ、ぶじに帰ったんだな。トオルにも会えたんだな。よかった)
シマ吉は、リボンを口に加えましたが、どうしていいかわかりません。
(こりゃあなんだ? おれにナゾかけたあ、アカネもシャレたことするじゃねえか。ひとつ、答えをききに行ってやるかな)
シマ吉は、ゆるむ顔をわざとふくらませると、あぜ道をしゅるるんとわたりました。
(おわり)

シマ吉は、すみかだった田んぼまでもどってきました。久しぶりの田んぼです。小さかった苗がぐうんとのびて、青いくきを風にそよがせています。
シマ吉は、田んぼの中にもぐると、大きくいきをはきました。
(これでいいんだ。だいじょうぶ。アカネを信じよう。おれたち、友だちなんだから)
シマ吉は、じっと田んぼの中で耳をすませると、いきをひそめて待ちました。

お日さまが少しかたむいてきたころ、大好きなアカネのにおいが、シマ吉のはなをくすぐりました。
(よし!)
シマ吉は、口をきゅっと結ぶと、みけんにしわをよせてこわい顔を作り、田んぼの中から、しゅるしゅるとはい出しました。
「あれ? ヘビさん!」
写本 -シマ吉の通せんぼシマ吉は、うれしそうに手をのばしてきたアカネを、ぎろりとにらみつけました。そして、ぐるぐるとトグロをまくと、鎌首をもたげました。
(アカネ、この先は行くな。あぶないし、山のふもとは、おまえが行くには遠すぎる)
シマ吉は、必死に告げました。
しかし、アカネには「シャー」となく声しか聞こえません。
真っ赤な目でアカネの顔をぎろりと見すえ、大きな口から赤い舌をちょろちょろと出し、シマ吉はうったえつづけます。
(車もいっぱいだし、迷子になるかもしれん。帰れ。引きかえしくれ。おれがいる。おれが、アカネの友だちだから)
シマ吉のうったえに、アカネの身体が固くなっていきました。ずさり、ずさりと、少しずつ身体が後ろに下がっていきます。
(わかってくれたか。もどってくれるか)
シマ吉がホッとほほをゆるめたその時、
「こわい・・・。こわ~い。ヘビさん、きらい!」
アカネは、シマ吉をにらむとさけびました。そして、町の方へ走りさっていきました。
シマ吉は、走るアカネの後ろすがたをぼうぜんと見送りました。ひきつったアカネの顔と、「きらい」の言葉が、頭の中をぐるぐるとまわっています。
(こわがられるかもって、かくごはしてたからな・・・。おれは、もとのいっぴきヘビにもどるだけ、へいきさっ)
シマ吉は、にじみ出そうになる涙をこらえると、空をあおぎました。そして、頭をぶるぶるとふると、田んぼの中にきえていきました。
それから、シマ吉がシイの木に姿をあらわすことはありませんでした。

しかし、ある日をさかいに、いつもいっしょだったトオルがこなくなりました。そして、アカネからは、笑顔がきえました。アカネは、ひとりでやってきては、何も言わずにシマ吉をなでて、帰っていきます。
シマ吉も心配しますが、頭をなでやすいように首をもちあげるくらいしか、できることがありません。
(おれに話ができたらなぁ)
シマ吉のこころに、どんよりとくもがかかっていきました。

それから10日ほどたったころ、
「ババアカネ。ババクサ、みちくさ、だれもくわ~ん」
はやし立てる声とともに、アカネがシイの木へと走ってきました。
何人かの男の子たちもいっしょです。しかし、男の子たちは、シマ吉が顔を出すと「やーい、ヘビおんなー」とさけんで走りさっていきました。
アカネは、しょんぼりとうなだれて木のみきにすわると、「ハァー」と、大きなためいきをつきました。
写本 -落ちこむアカネとシマ吉シマ吉は、いつものようにアカネのそばに行くと、首をかしげました。
「みんな、アカネはへんだって、遊んでくれないの。アカネ、へんかなぁ」
(なに! そんなやつら、おれがもんく言ってやる。つれてこい)
シマ吉が「シャー、シャー」と答えます。
アカネは、そんなシマ吉の頭をなでると、ひとり言のように、話しつづけました。
「あーあ、トオルはいないし、つまんないなぁ」
アカネは口をへの字にゆがめました。
(トオルはどうした、ケンカか?)
シマ吉が、心配そうに見つめます。
そんなシマ吉の言葉がわかるかのように、アカネはつぶやきました。
「トオル、あのお山のふもとにひっこしちゃったんだ。ちいさいときから、ずっといっしょだったのに。・・・この辺がモヤモヤして気持ち悪い」
アカネは、胸のあたりをさすります。
(そうかぁ、それはさみしいなぁ)
シマ吉は、ぐじゅん、とはなをすすりました。アカネの思いが、いたいほどわかります。
「あーあ、トオルがいたらなぁ。どうしたら、また、トオルと遊べるんだろう」
アカネは、「どうしたらいいかなぁ」など、ぶつぶつとつぶやいていたかと思うと、
「そうだ! アカネが会いに行けばいいんだよね!」と、目をかがやかせました。
「山のふもとなんて、すぐそこに見えているし、近いよね。う~ん、もう、今日の帰りに行ってこよう! トオル、会いに来たらびっくりするだろうなぁ」
そして、うれしそうに白い建物にもどっていきました。

シマ吉は、むねがドキドキしてきました。山のふもとは、シマ吉でも3日はかかります。ましてや、車の走る道を、何度も横切らないといけないのです。アカネだけでそんなところに行って、どんな危険が待っているか、わかったのものではありません。
シマ吉の頭に、取り返しのつかない結果となった小さいころのぼうけんが、よみがえりました。
(こうしちゃおれん。なんとかしないと!)
シマ吉は、小さな頭を左右にふりながら、ああでもない、こうでもないと考えました。もやもやと、いろんな思いが頭をよぎります。
(これしかない・・・か)
シマ吉は、目をかっと見開くと、決意を固めるように、ゆっくりと、首をたてにふりました。そして、いそいでシイの木を後にしました。