アーカイブ

さて、その日は他にもどうぶつたちがやって来ました。
サワガニは心をこめて、みんなの毛皮や羽毛の手入れをします。

やがて日もくれて、そろそろ店じまいというころ。
一匹のハリネズミも理容室の前にやってきました。
ハリネズミはこことはべつの森に住んでいるのですが、サワガニのうで前を聞きつけおとずれたのです。


ハリネズミは店の前に立ったものの、首をふってもと来た道を戻ろうとうしろを向いてしまいましたが、二、三歩歩いて立ち止まると、また理容室に向き直り、今度はいきおいよく木のトビラを開けました。
「いらっしゃいませ」
サワガニは、ハリネズミをにこやかに出むかえます。

次に理容室にやってきたのは、ねむたそうな顔をしたふくろうでした。
「ほーほー、こんにちは」
「あら、ふくろうさんこんにちは。・・・どうなされたのですか? ずいぶんとねむそうですが」
ふくろうは「そうなんじゃよ」と大きなあくびをしました。

「わしはふだん、こんな昼間はねむりこんでおるんじゃが、最近ねつきが悪くてのぉ。さんぱつでもしてスカッとすれば、ねむれるかと思って来たんじゃよ」
「かしこまりました。それではイスにおすわりください」
とは言え、さんぱつでねむれるようになれるものかとサワガニは考えます。

イスにこしをかけたふくろうは、こくりこくりとうなづいてねむそうなのですが、すぐに顔を上げて目をさましてしまうようでした。
〈ああ、わたしの店のイスが、ふかふかのクッションだったら良かったのに・・・、うん? ふかふかのクッション・・・そうか! なければ作ってしまえばいいんだ!〉

とある森のおくの川べには、どうぶつたちがおとずれるサワガニの理容室がありました。
サワガニのハサミでオシャレにしてもらうために、さまざまな森のどうぶつたちがやって来ます。
今日もさっそく、お客がありました。
長い耳をしたウサギです。

ウサギは「こんにちは!」とトビラをあけると、ぴょ〜んとはねて、そのまイスにこしをかけました。
「今日はどんなヘアスタイルにいたしましょう」
サワガニがたずねます。
「そう、それなんだけど、この長い耳にまけないくらいカワイクしてほしいの」
「耳に・・・ですか?」

それから、3しゅう間がたった。
日ざしは、ギラギラして夏の本番だ。
野きゅうのれんしゅうから帰ってきたら、にわに大きなザルがおいてあった。
その上に、まっ赤になったウメがのっかっていた。
お母さんがあとで入れた赤ジソもある。
はたけのすみに、すてるじゅんびをしているみたいだった。

「あら、フウ、おかえりなさい」
「ウメ、しっぱいしちゃったの? すてちゃうの?」
「だいじょうぶよ。はじめてなのに、うまくいってるわ」
お母さんが、ポイっとウメを口に入れて食べた。
ドキドキした。でもすぐ、ぼくも口にポイっと入れてみた。
「すっぱーい。しょっぱーい」
きゅーっと、口がとんがった。ちゃんとウメボシのあじだ。

「このまま3日間、おひさまと夜の風に当てるのよ」
ウメはだんだん、シワシワになっていった。
さいごの夜、ぼくは、にわに出てみた。
さあっと、風がTシャツをとおりぬけた。すずしい。
細くて長いケムリが、風にのっかって、ながれている。げんかんの、かとりせんこうだ。

ぼくは、そっと、ザルをのぞいてみた。
「たいへんだ! ウメが、ぬれてるよ!」
細かい水のつぶつぶが、シワシワのウメにくっついていた。

「バイバーイ」
「またねー」
ほうかご。
みんなの声がひびく校庭をあとに、アスカちゃんは歩きだした。
アスカちゃんは、いつものように児童館にむかうのだった。

アスカちゃんは、2年生。パパとふたりぐらしだ。
ママは、アスカちゃんがようちえんの年長さんのときに、家を出ていってしまった。
どうしてだかわからない。ただ、夜おそくに、パパとママがケンカをする声がよくきこえた。

〈パパ、ママ、おねがい、ケンカはやめて!〉
アスカちゃんはふとんを頭からかぶってなきたくなった。

フミヤは吸血鬼のモリオを縁側の下にあんないしました。
もう一度ネズミを呼ぶと、さっきのエプロンネズミがめんどくさそうに出てきました。
モリオをしょうかいし、今までのできごとを話して聞かせました。
そして歯をかえてくれるかどうかたのんでみました。

ネズミはちょっと困った顔でしたが、
「しょうがないですねえ。今度だけですよ」
と、うなずいてくれました。

そうして、今は二人とも大人のりっぱな歯をもっています。
しかし、一つふしぎなことがあります。ネズミは人間の子供の歯をどうしているのでしょう。

フミヤが聞いたところによると、ネズミは自分の歯とこうかんしているわけではないようです。
人間のこどもにあげる強い歯は工場で作っているのだとか。
そして、交換した子供の歯は、科学的にぶんかいして、とうきのうつわを作っているそうです。
骨や歯は丈夫なカルシウムがふくまれているので、昔から人間も入れ物を作ってきました。
そして、吸血鬼の歯は、なんとミキサーのハとして使っています。
果物をすりつぶすのにとても役にたっているとよろこんでいました。

「うそお」
「ほんとだよ。うちのせんぞは吸血鬼の血をひいているんだ」
フミヤは一歩うしろにしりぞきました。
「こわがらなくてもいいよ。もう血なんか吸ってないよ。ちゃんふつうのごはん食べてるよ。でも歯は今でもすごいのがはえてくるんだ。ジャマでしょうがない。だからふつうの子供の歯がほしくて。たまたまキミが歯をすてるのをもくげきしたから、なんてもったいないと思って、ひろっちゃった」

「どこにいたの? 気づかなかった」
「ときどきコウモリに変身して昼寝するんだ。あの時も縁の下の暗いところにぶらさがってたんだよ」
「びっくりだ。それでぼくの歯をどうしたの?」
「とんがった自分の歯をとってつけかえちゃった」
「そんなことできるの?」
「とりはずしできるんだ。でもフミヤくんの歯は弱すぎて、固いもの食べたらかけちゃったんで、けっきょく取っちゃったよ」
「そりゃあ、それは子供の歯だもの」

フミヤは吸血鬼のモリオに歯がぬけた時のおまじないの話を聞かせてあげました。
「歯をひろったのがキミだったから、ぼくの歯はこんなになっちゃったんだ。これは吸血鬼の歯だったのか」
モリオは少し考えてから言いました。
「ぼくもねずみさんにたのめるかな」
「いい考えだ。行ってたのんでみよう。どう思う? ブチ」
「めいあんだね」

ブチがつれてきてくれたのは、町のはずれにある外国のおやしきのような家でした。
ぴょんぴょんと木に飛び乗り、二階の窓のそばのえだで止まりました。
そしてしゃれた形の窓のわくに手をかけ、ガラスの向こうをじっと見つめ、そして中に向かって手まねきしました。だれかをよんでいるようです。

またぴょんぴょんと木をつたい、フミヤのそばにもどってきました。
わけがわからずじっとしていると、しばらくしてげんかんから同じくらいの年の男の子が一人とびだしてきました。
ブチがその子を見て言いました。
「こいつが歯をもっていったんだ」
男の子は大きな目でフミヤを見つめました。

もこっと土がもりあがり、いっぴきのネズミが顔を出しました。
ゆっくりと出てきたネズミは二本足で立ち、大きなエプロンをしていました。
おどろいてこしをぬかしそうになっているフミヤに、ネズミはえらそうにむねをはって言いました。
「こまりますねえ。今ごろそんなこと言われても。それにあんたの歯をうけとったのはわたしたちじゃありませんよ。あんたいったいだれにおねがいしたんです?」
「たぶんキョウリュウなんです」

おそるおそる答えると、
「キョウリュウなんてもうほろんでしまっていませんよ」
と、あきれられました。
「でも本当なんです」
「ちょっと歯をみせてください」
フミヤは大きく口をあけると、ネズミがのぞきこんできました。

「これはキョウリュウの歯ではありませんね」
「なんの歯?」
「知りません。おそらくだれかがあんたの歯をひろっていったのでしょう。きっとそいつの歯ですね」
「どうしよう・・・」
フミヤは泣きそうになりました。

ところがだんだんとこまったことが起きてきました。
すぐになんでもかじりたくなるのです。
おせんべいなんかではあきたらず、ある日だいこんを丸ごとバリバリとかじっていました。
そしてにんじんをナマのまま、次はゴボウをゴリゴリ。

みんなが心配してやめるように言いましたが、フミヤは言うことを聞きません。
自分でもやめられないのです。
とうとう気が付くとお皿をかじっていました。
お母さんがびっくりしてお皿をとりあげると、今度はテーブルにかじりつきました。

お母さんは急いでフミヤをお医者さんにつれていきました。
いろんなところをけんさされましたが、どこも「いじょうなし」でした。
とうとう学校のとびばこをかじってしまいました。いくらすごい歯でもやりすぎです。

お母さんたちは「いったいどうしてなんだろう」と頭をかかえましたが、フミヤには心当たりがありました。
“おまじないを変えてしまったから”

こまったフミヤはそっとおじちゃんちをたずねました。
暗い縁の下に向かって、手をあわせておねがいしました。
「ネズミさんごめんなさい。もう一回やり直させてください」
すると・・・。