アーカイブ

次の日、フミヤは歯を持って、おじいちゃんの家へ行きました。
きょうはブチはひるねをしていません。
縁の下をのぞきこみました。
ブチが地面にすわって大あくびをしていました。

フミヤは歯をとりだしました。
しかしそこで考えました。
(ネズミの歯はしょぼい。ネズミよりもっとすごい歯がいいな)
そして、フミヤはおまじないをかってに変えてさけびながら歯をなげたのです。
「キョウリュウの歯とかえてくれ」

歯はコロコロところがってすぐに見えなくなりました。
ブチが目を見開いて歯の転がる方を見ていました。

フミヤの歯はすぐに生えてきました。
すごいスピードであっというまにのびました。
ものすごくりっぱで、とんがっていてピカピカでした。
かたいおかずもらくしょうでかじれます。

「おまじないがきいたみたいね、フミヤ」
お母さんもよろこんでくれました。
「うん」
フミヤは心の中で思いました。
(だってこれはキョウリュウの歯だもの!)

フミヤははじめて歯がぬけました。
1年生になったばかりの春のことです。
上の前歯がぬけて、口をあけるとぽっかりとあながあいて、なんだかスースーしてへんなかんじです。

「ぬけた歯、見せてごらん」
お母さんがフミヤの歯を手にのっけて、こう教えてくれました。
「りっぱな大人の歯がはえてくるように、おまじないをするのよ。上の歯がぬけたら縁の下に。下の歯が抜けたら、やねの上に向かってなげるの」

「じゃあ僕は上の歯だから縁の下だね。でも縁の下ってどこ?」
「うちはマンションだから縁の下はないの。おじいちゃんの家にあるわ。にわが見えるへやの外に、少しだけろうかみたいなところがあるでしょ」
「いつもブチがひるねしてるとこ?」
「そうそう。そのゆか下。あそこになげるの。その時に、こう言っておねがいするのよ。『ネズミの歯とかえてくれ』って」
フミヤはおどろきました。

「なんでネズミなの? お母さん」
「強い歯をもってるからよ。なんでもがりがりばりばりかじれるでしょ」
「なるほど」

エージェント3⑥風邪薬「ヴ~。ゲホッゲホ・・・」
「だいじょうぶ?  おくすりのんで、ねてなさいね」
ママが、ぼくに、おくすりをのませる。
「それにしても、何であんなところで、ねてたのかしら・・・」
ママが首をかしげた。

クリスマスのあさ。ママがぼくたちをおこしに来たとき、ぼくは、おふとんもかけずに、まどの下でねていた。
おかげで、ぼくは、すっかり、かぜをひいてしまったのだ。
「ママ。ぼく、コーヒーのんだけど、ねちゃった」
つよしが、ママに言った。

つよしは、そのことが、ふしぎで仕方ないらしい。おふとんに入って、すぐにねちゃったもんな。
「ふふ。あなたたちのコーヒーは、うす~くしてあったのよ。夜、ちゃんとねないと、体によくないでしょ?」
「なぁんだぁ・・・」
つよしが、がっかりした声を出した。
「たかしは、お昼ごはん、おかゆにしましょうね。たまご入りの」
ママがそう言って、部屋を出て行った。

カチャ・・・
部屋のドアがあいた。ぼくは、ドキッとして、目をさました。
いけない、いけない。ちょっと、ねちゃってた。
ドアの方から、だれかが、しのびあしで、部屋に入ってくる。もしかして、サンタさん?
しまった・・・。
まさか、ドアから来るなんて。ドアの方には、わなを、はってない。

エージェント⑤プレゼント「だれか」は、ぼくたちの方に、ちかづいてくる。
サンタさんだったら、つかまえなきゃ。水でっぽうをもって、「手をあげろ」って言うんだ。
ぼくは、ドキドキしながら、ねたふりをしていた。
そして、「だれか」が、ぼくたちの枕のよこにきた時、そうっと、うす目をあけた。
「・・・!」
あぶなく、声をあげるところだった。
枕のよこにいたのは、パパだった。パパが、ぼくの枕のよこに、プレゼントをおくところだったのだ。

クリスマスイブの夜になった。
「ママ~」
つよしが、居間のソファから、ママをよぶ。さくせん、かいしだ。
「どうしたの?」
ママが、つよしのところに行った。
よし。
ぼくは、こっそり、キッチンに入った。

エージェント3④インスタントコーヒーインスタントコーヒーのビンは、たなの中だ。
そうっとイスをもっていって、たなをあける。ビンは、すぐ目のまえにあった。
ビンをもってイスからおりた。
こっそりコーヒーをいれて、子ども部屋にもっていけば、さくせんは、せいこうだ。
ぼくは、ふたに、手をかけた。
う~ん・・・
う~~ん・・・・・・
あかない。
ぼくは、ビンを一回おいて、はぁはぁする。
すごく、かたい。コーヒーのフタって、こんなにかたいんだ・・・。
めいっぱい力を入れてるのに、ぜんぜんあかない。
くっ。もう一回だ。
ぼくは、うでと体でビンをはさんで、手でフタをもって、もう一回、う~んと力をこめた。
う~ん、う~ん、う~~~~ん・・・・・・

カパコカコッ!
ゴトンッ!
「あっ・・・」
しまった・・・。
いきおいよくフタがあいて、ビンがゆかにおちた。
「たかし? どうしたの?」
ママが、こっちにくる。ぼくは、いそいで、ビンをひろった。
なかみが、こぼれてる。

「にいちゃん。サンタさん、いるのかな」
「うん・・・。よく、わかんなかったな」
その夜、ぼくたちは、おふとんに入ってからも、サンタさんのことを考えていた。
「こうなったら、サンタさんを、つかまえるしか、ないと思うんだ」
ぼくは、心の中できめていたことを、つよしに言った。
「つかまえるの? サンタさん?」
「そう。そしたら、ほんとにサンタさん、いるだろ? だって、つかまえてるんだから」
「そっかぁ。そうだよねぇ」
つよしが、うれしそうに言う。

エージェント3 上司「ようし。つよし、いいか。今回は、しれいかんが、てきだ」
「しれいかん、てきなの?」
「そうだ。しれいかんは、きっと、サンタさんをつかまえるなんて、ダメって言うと思うんだ。えいがでも、あるだろ? しれいかんが、てきのこと」

大きな机にすわって、エージェントにしれいを出す、えらい人が、じつはてきだったってことが、えいがでは、よくある。
「だから、しれいかんに、見つからないように、サンタさんをつかまえる。いいな?」
「うん!」

エージェント3②すきやき「お! いい肉だな~」
パパがうれしそうに、すきやきのお肉をおはしでとった。
いつもは、ママがごはんを作ってくれるけど、すきやきの時は、パパがつくってくれる。おなべに、たれをちゃぷちゃぷいれて、お肉をおよがせる。
「みろ、たかし、つよし。お肉のプールだぞ」
ぼくも、つよしも、お肉が大すきだ。
だけど今日は、ぼくは、むねがドキドキして、あんまり、お肉によろこべなかった。
パパに、テツヤが言っていたことを、きいてみようと思っていたからだ。

「ねぇ、パパ」
「うん?」
パパが、ニコニコしながら、こっちを見る。
「サンタさんって、ほんとは、いないの?」
「えっ・・・」
パパのかおが、しゃしんをとる時みたいに、かたまった。

「テツヤが言ったんだ。サンタさんって、ほんとは、いないって。プレゼントは、パパとか、ママが、おいてるんだって」
「え、え~と、それは・・・」
パパが、あわてて、ママの方を見る。
ママも、お茶をいれようとしたポーズのまま、カチカチのねんどみたいに、かたまっていた。

もうすぐ、クリスマス。
ぼくたちがいつも、しれいかんから「ひみつのしれい」をうけて買いものにくるスーパーにも、キラキラしたおかしや、サンタさんのぼうしが、ならんでいる。

「にいちゃん。サンタさんのぼうし、ほしい」
「うん・・・ほしいな」
でも、ダメなんだ。今日のしれいは、お肉を買うことなんだから。
ぼくはエージェントたかし。もう小学校1年生のお兄さんだ。弟のエージェントつよしは、あと少しで5さいだ。
ぼくたちは、エージェントをやっている。エージェントっていうのは、ひみつのしれいをもらって、かつやくする人のことだ。

「神様、なります。なります。ぼくはお山になります!!」
おにぎり君はこころよく引き受けました。
「よかった。よかった。わしとて、うれしいんじゃよ。これで風がふいて寒くなることもない。アハハハハ・・・」

神様はまた、うれしくなっておどりだしました。
「やっほほ~い! やっほほ~い!」
おにぎり君もおどりだしました。
「ゴロロンロ~ン、ゴロロンロ~ン」

すると、おにぎり君の体中から、緑の芽がいっせいにのびていきました。
「やっほほ~い!  やっほほ~い!」
神様がおどりだすと、さらに芽がのびていきます。
おにぎりと神様
ドングリも、花も、カキも、いっせいにのびて大きくなっていきます。
気がつくと、おにぎり君だった形も、ズンズンと変わっていき、大きく、大きくなっていきます。
さらに、大きく形を変えて、神様がいたほこらのそばには、りっぱで大きな山ができあがっていました。

「あれれ、あれ、あれ?」
おにぎり君がみると、自分の頭のてっぺんに、かわいい芽がひょっこりと顔を出しています。
おにぎりと神様7

「ああ~。やっと、顔を出せたよ!!」
かわいい芽のドングリは言いました。
「おにぎり君、ありがとう。神様のところへつれてきてくれて、おかげでうんと、大きくなれそうだよ」
おどろいて声が出ないおにぎり君に、さらに、神様がこう言いました。

「ほ、ほ~う。なるほど、なるほど、なるほどなあ~。これまた、すごいことになっておるぞ!!」
「え? またですか?」
「おまえ様の中で、別のタネたちの根っこが生えておるようじゃ。そら、そら、そら、もうすぐ、芽が出るぞい!!」
ニョキ!! ニョキ、ニョキ、ニョキ!!
今度は、おにぎり君の横のほうから、さらに、小さな小さな芽が出てきました。

「あれ、あれれれれ?」
どうやら今度は、花のタネが芽を出したようです。
「ああ。やっと、タネの中から出られたわ」
花のタネは言いました。
「おにぎり君、ありがとう。神様のところへつれてきてくれて。これで、お花をさかせそうだわ」

さすがの、おにぎり君も、あと、もう一つタネが残っていることはしっています。
キョロキョロと、自分の体を見て回ります。
すると、体のあちらこちらから、ニョ!ニョ!ニョ、ニョ、ニョ!!!と、さっきよりも、大きな芽が体中にいっぱいはえてきました。

「やあ~。やっと、神様に会えたんだね」
いっぱいの芽は、カキのタネたちでした。
「おにぎり君、ありがとう。神様のところへつれてきてくれて 。これで、おいしい実を作れそうだよ」

なんだか、おにぎり君は自分の体にいるみんなが幸せそうで、うれしくなってしまいました。
その時、神様が言いました。
「どうじゃ? おまえ様、このさい、おにぎりから、べつのものになる気はないかい?」
「べつのものですか?」
「わしのほこらを守ってくれる、山になってみてはどうじゃ? たくさんのタネたちもいることだ。きっと、みんなの山にもなれるであろう」
自分が大きなお山になる。
おにぎり君は、小さかった自分が大きな山になれるなんて、しかも、ずっと、神様のそばで風をよける役目につけるなんて、思ってもみませんでした。
おそなえ物だった自分が、この先もずっと、お山としてお役にたつことができる 。
なんて、すてきなことだろう。