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ソラはあいきょうのある犬だった。
人が話していると、トコトコとよってきて、ちょこんとこしを下ろして楽しそうに耳を動かしている。人がなにを話しているのか、聞いているような顔つきだ。
ソラは6才のりっぱな大人で、やんちゃそうな顔つきなのに性格はおとなしく、とてもかしこい犬だった。

「ソラはいい子だねえ! おりこうさん」
お母さんがほめるのをうれしそうに聞いて、ぶんぶんしっぽをふりまわす。満足そうに口を開けて笑う顔は、やっぱりエルににている。

でもエルはゆっくりしっぽをふるタイプだったので、そういうところはちがうんだなとくるみが考えていると、ソラがじっとこちらを見つめているのに気づき、ふいっと顔をそらす。
ソラは残念そうに部屋のすみに去っていった。すると、お母さんがそばにきてないしょ話をするようにそっとソラを指差した。

「ねえ、くるみ見て。ソラ、いつもあのボールをそばに置いてるの」
ソラは部屋のはしで、前にエルが使っていたクッションの上に丸くなっている。そのそばには、ソラの宝物だという水色のゴムボールがあった。

結局、くるみの家には犬が一頭やってくることになった。「ソラ」という名前の犬だという。
ゴールデン・レトリーバーのざっ種で、金色のきらきらした長い毛を持っていて、とても楽しそうなひとみをしているのだそうだ。

「その目がね、すごくエルににてると思ったんだ」
そう話すお父さんは楽しそうだ。
ソラはミックス犬だからゴールデン・レトリーバーとちょっとちがってピンと立った耳をしているという。それがソラのチャームポイントらしい。

「ソラはボール遊びが好きらしい」
「へぇ、そうなの! エルも好きだったわよねえ」
ソラのことを話すお父さんとお母さんはとても楽しそうで、少しだけくるみも笑う。けれど、あわててまゆをぎゅっとよせてこわい顔を作った。くるみは犬がキライなのだ。

「くるみちゃん! 見て、うちの子! かわいいでしょう? いまから散歩に行くんだ」
習い事に行くとちゅう、公園のわきを歩いていたくるみは足を止めた。ブランコのそばで大きく手をふっていたのは、ゆいと孝太(こうた)だ。
くるみと同じクラスの友だちだった。

その足元に、みかけない犬が1ぴきいる。まだ子犬のようだった。
ふたりはくるみの元に走ってくる。もちろん犬もいっしょだ。

くるみはまゆをよせて、キッパリと言った。
「わたし、犬はキライだから、近づけないで!」
かけてきたゆいと孝太は、おどろいて立ち止まる。

いっしょに走ってきたたれ耳でどう長の子犬は、くるみを見てうれしそうにしっぽをふっていたが、ゆいはあわててリードを引っぱると、自分のところに子犬をひきよせた。
くるみはいやそうに、ふいっと顔をそむける。ゆいはずいぶんこまった顔をしていた。

「えっ、でも、くるみちゃん、犬のこと・・・」
「へえ、くるみは犬キライなんだ。犬ってさ、かわいいよ? オレの家も、いま犬を飼(か)う相談してるから、ゆいのとこの子犬、見にきたんだ。くるみも、ちょっとなでてみたらいいのに。いまから、ゆいのお母さんといっしょに犬の散歩に行くんだけど、くるみもどう?」

「ただいま。おなかすいたでしょう」
ドアが開く音と同時に聞こえた声に、結那(ゆいな)の顔がほうっとゆるみました。
お母さんが帰ってきたのです。

「ごめんね、今日お店こんでてね」
お母さんの仕事は、いつもは13時半に終わります。
ですのでお母さんは、小学校三年生の結那より、早く帰ってきます。

しかし今日は、お客さんが多かったのでしょう。時計は、15時40分を指しています。
結那は、秘密の場所にあるカギで家に入り、ひとりでお母さんの帰りを待っていました。

「大丈夫だよ。給食食べたから」
にっこり笑った結那のおなかが、ぐうっと音を立てました。
「もう。がまんしないでいいのよ」

お母さんは結那の頭をなでると、持っていた袋を開けました。
中には、少し形のくずれたクマやパンダのパンが入っています。
クマのパンは、はちみつ味、パンダの顔の中身は、あんこです。

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シュッ!
オオカミが、えものめがけて、とびかかった。
えものは、いっしゅんビクッとして、すぐにうごかなくなった。

「どうだ。ウサギなら、人間も食えるだろ。おれも食うから、半分こしよう」
オオカミが、くわえていたウサギをぽとりとおとす。丸々とした、
なかなかおいしそうなウサギだ。
「うん。ウサギは食べたことないけど、やいてくれれば食べられると思うよ」

男の子が言うと、オオカミが首をかしげた。
「やいてくれれば?ヤイテクレレバってなんだ?」
「だからさ。フライパンにあぶらをしいて、じゅう~って、料理するんだよ。生のままじゃ、食べられないから」
「おいおい、いいかげんにしてくれ。オオカミのおれが、そんなことするわけないだろ。生のままがいやなら、おまえが自分でどうにかしろよ」
「えっ」

男の子はしばらく、ウサギを見つめていたが、
「・・・むりだよ。お肉はふつう、スーパーとかで買うんだ。こう、ちゃんと切り分けて、パックづめになっててさ。そのままやけばいいように、なってるんだよ。こんな、丸々一匹のウサギなんて、どうしたらいいか、分からないよ」
と、泣きそうなかおをした。
オオカミは、思わず天をあおいだ。

「ほれ、どうだ。食べものだぞ」
オオカミが、くわえていたシャツをはなした。男の子は、ポテッと地面におちる。
「いったぁぁっ!」
ざっくりと、おしりに何かのトゲがささり、男の子は悲鳴を上げてころげまわった。
「いたいぃぃ! 何これ!」
おしりをさすりながら見てみると、周りには、くりのイガがごろごろ。
「おれはこういうのは食わないが、人間は食うだろ。さっさと食え。そして太れ」
オオカミにうながされて、男の子は、おそるおそる、くりのイガに手をのばした。
トゲをつまむようにして、そっと持ち上げ・・・そのままじっと、固まったように動かない。

「・・・どうした?はらがへってるんだろう。早く食え。そして太れ」
オオカミが、横からつっつく。男の子は、こまったような顔をした。
「これ・・・どうしたらいいの?」
「はぁ?」
オオカミは、ぽかんと大口をあけた。

「どうしたらって、食えばいいだろ? 人間は、くり、食うだろ?」
「いや、何て言うか、ぼくの知ってるくりとはちがうって言うか。これじゃ、食べられないんだけど」
男の子は、しげしげとトゲのかたまりをながめ、くるりと回してみたり、高く持ち上げて下からながめてみたりする。

「ぼくがいつも食べてるくりは、もう、トゲとか、なくってさ。パックに入ってるんだ。おうど色で、甘いにおいがして、そのまま食べられるの。お店で買ってくるんだ」
どうやら男の子は、くりといえば、パックの甘ぐりしか見たことがないようだ。

「くりを、わざわざ店で買うのか? 家の庭に、くりの木くらい、生えてるだろ?」
オオカミが、きょとんとして言う。
「庭なんて、あるわけないじゃん。マンション住まいだもの。都会の住宅事情を甘く見ないでよ。それより、これ、パックのくりに、してくれない?」

「おれに言うなよ。おれは、肉しか食わないんだ。くりのパックづめなんて、したことないぞ。そういうのは、人間の方がくわしいだろ」
「えー・・・。どうしよう。このトゲトゲを取ったら、パックのくりが出てくるのかな」

キリキリキリキリキリ・・・。
からっぽのおなかが、しめつけられるように痛む。体に力が入らない。
「もぉ歩けないよぉ・・・」

男の子のつぶやきは、弱々しく、木と木の間に消えていった。
リュックに入っていたおにぎりも、クッキーもチョコもキャンディーも、もうぜんぶ食べてしまった。
さいしょに、このリュックをしょった時には、「重いな。おにぎりが大きすぎるんだよ」なんて思ったのに、今は、軽くなったリュックがうらめしい。

男の子は、迷子だった。もう3日も前から、森の中をさまよっている。
(だからぼくは、こんなイベント、いやだって言ったのに。家でゲームでもしてりゃ、こんな目にあってないのにさ)

森の中のハイキングコースを歩いて、広場でお弁当を食べる。そんなイベントに、パパが勝手に申し込んでしまった。
(ぼくが、やせっぽちで、体力がないって?『子どもはもっと、太らなきゃだめだ。たっぷり食べて、しっかり運動だ!空気のおいしい森なら、ごはんもおいしいぞ』とか言っちゃって。大きなおせわだよ)
パパが、一人で行けばいい。
そう言ったのに、親子で参加するイベントだからと、ムリヤリ連れてこられたのだ。

はらが立ったから、ちょっと困らせてやろうと思った。こっそりコースをはずれて、広場に先回り。パパたちが着いたら、「やぁ、おそかったね」なんて、すずしいかおで言ってやろうと思ってたのに・・・。

 10 小鳥になったトト

「アディ、ぼくだよ」
トトによばれて、アディはわれにかえりました。
そこには白い小鳥がいました。
ちっともペンギンには見えません。
なのに、アディはそれがトトだと分かりました。

「トト!」
アディはトトをだきしめました。
なみだがあふれて、止まりません。
「ごめんね、トト! あたしのせいで」
「どうしてあやまるの、アディ?
ぼくは、今、神様の庭にいて、とても幸せなんだ。
ほら、見てよ。神様は、ぼくに、こんなにすてきなつばさをくれたんだよ。
ぼくがペンギンだったころ、ちっとも大きくならなかったのは、こんな風に、神様から、つばさをもらうためだったんだね。
今のぼくは、自由に、空を飛べるんだ! 最高だよ!」

「ちがうよ、トト! 飛ぶより、泳ぐほうが、ずっと、楽しいんだよ。
ペンギンでいるって、そりゃあ、すばらしいことなの!
それを教えたくて、どうしても、あんたをつれもどしたかったの。
ねえ、神様の庭なんか、にげだして、あたしと北の海に行こう!
海はすてきだよ! おいしいエサでいっぱいだし、氷の島でひなたぼっこすると、そりゃもう、気持ちがいいの。あたしたちはペンギンでいるのが、一番、幸せなんだよ!」

9 ペネロープ

「夢でも見ているのかしら」
スクアノタカラが光を放ち始めると、オーロラが、どんどん、低く、下りてきて、アディのまわりを、緑色の光で取り囲みました。

その中で、音もなくドレスをひらめかせるオーロラの姫君たち。
「3人? 10人? ちがう、もっともっといる」

アディは、こわくて、さけびそうになりました。すきとおった少女たちの目の、何という冷たさ!
「決して、動いても、声を出してもいけないよ」
アディは、モルテンの言葉を思い出し、けんめいに、こらえて、じっと、立っていました。
すると、ひそひそと話す、姫たちの声が聞こえました。

「きれいな宝石。私のむねをかざるペンダントにふさわしいわ」
「いえ、私のかみかざりにこそ、ちょうどいいわ」
どうやら、姫たちの間に、宝石をめぐる争いが始まっているようです。
アディは耳をそばだてました。

「でも、ここに持ち主がいるわよ。若いペンギンだわ」
「持ち主とは言えないわ。その子、死んでいるもの。ほら、ちっとも動かない」
「死んでいても、持ち主は持ち主よ。だまって取るのはどろぼうよ。父君がゆるさないわ」
「父君は、はるか、北の空。ここまでは、見えやしないわ」
「そうよ、そうよ! 宝石は私のもの!」
「いえ、私のよ!」

オーロラたちは、あらそって、スクアノタカラに手を出しました。
とたんに、
「ああ、いたい!」
と、ひとりがさけびました。その手が、石にくっついたまま、はなれなくなったのです。
「たすけて!」
姫は、かなしい声で、さけびましたが、ほかの姫たちは、あわてて、にげていきました。