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ふと気がつくと、池から出てきたカバ男くんが、ねそべっています。
「じゃあ、ぼくにも何か作ってよ」
ポリポリおしりをかきながら、みんなにたのみました。
「『水の中のカバ!』自分の力のはっきできるところでがんばること」
「『陸の上のカバ!』カバ君たちってああ見えて、時速40キロで走れるんだよ。だから人は見かけによらないってことで」
ウサギのピョン子やスカンクのプープーも、はずかしそうに、意見を出しました。
動物ことわざ会議4場面「ねえ、カバ男君は、どれがいいの?」
返事がないと思ったら、なんとカバ男くんは、グーグーいびきをかいています。
「ありゃまあ、カバ男君、ねちゃったよ。でも、なんだか楽しいね。こうしてぼくたちでことわざ作るの」
「ねえ、ねえ、もっと作ろうよ!」
子どもたちもいっしょにワイワイガヤガヤことわざ作りが始まりました。
「やれやれ。今日の会議はひつようなかったようじゃな。そもそも、人間がわれわれのことをどう言おうが気にすることはなかったんじゃ」
議長のヤマネコおじいは、ぼそっとつぶやくと昼ねをしに家に帰りました。
さて、ヤマネコおじいが昼ねからさめるころには、いくつの動物ことわざができているでしょうね。

「『犬が西向きゃ尾は東』なんて、当たり前のわかりきっていることのたとえだそうですが、人間も本当におかしな生き物だと思いますよ。人間だって前を向いたらおしりは後ろですよねえ。そんな当たり前のことを、なぜわざわざことわざにするんでしょうねえ」
犬のポチもふしぎそうです。
「そういやあ『犬えんのなか』っていうのは、なかがとても悪いことのたとえだっていうじゃないか。だれがオレたちサルと犬のなかが悪いって決めたのかねえ。人間の子どもだって『ももたろう』の話は知ってますぜ。ももたろうのけらいは犬、サル、キジ。なかよくなけりゃあ、おになんてたいじできないことくらいわかりそうなもんなんだがなあ」
物知りのサルのすけが首をかしげました。

みんなあれこれ人間にもんくを言いはじめたので、だれが何を言っているのか聞こえなくなったときです。
「ふわぁ」
大きなあくびの声にみんな、びっくりしました。
「ライオンは百じゅうの王と言ってくれる人間はいい生き物だと思うよ」
村長のライオン丸がのんびり口を開いたので、みんな急にだまりました。
「ほめてもらってるのは村長くらいなもんだよねぇ」
あちこちで、みんなのひそひそ声が聞こえます。

そのとき、後ろのほうから黒ヒョウの子どものヒョウタロウが出て来ました。
「みんないいなぁ。ぼくなんて、人間に悪いことすら言われないんだよ」
「そういえば黒ヒョウが何とかって聞かないわねえ」
みんなで考えましたが、だれ一人思い出せません。
「それじゃあ『暗やみに黒ヒョウ』っていうのはいかが?」
ネコのミー子がていあんすると、みんな大さんせい。
3場面
「かくれるのが上手な様子を言うんだね?」とコン吉が聞くと
「いつ何があるかわからないからゆだんするなってことでしょう?」とブタ子さん。
どっちがいいかなあとみんながなやんでいましたが、「かくれるのが上手なことがいいなあ」というヒョウタロウのひとことであっさり決まりました。

「みんなのは、まだいいんじゃないですかい? 『とらのいをかるキツネ』なんてひどいもんですぜ。なんでも、いきおいをもつ人にたよって、いばる人のことらしいんですがね。いつ、おいらがとらさんの力をたよって、いばったっていうんですかい。人間が勝手にお話を作っただけじゃないですかい」
キツネのコンキチは、だんだんこうふんして、つり上がった目をますますつり上げました。
動物ことわざ会議2場面「そういやあ、いじめっ子のけんたくんといっしょにいるしゅんすけくん、けんたくんといっしょのときだけ、いばってますぜ。けんたくんのいないときは、こそこそしてるのに。『けんたのいをかるしゅんすけ』っていうのはどんなもんです?」
「そうよね。人間だって、同じ人間の名前のほうが、わかりやすいわよね」
木のえだにいたリス子がさんせいすると、
みんなも「そうだ。そうだ」とはく手したので、森の木が、ざわざわゆれました。

「ぼくは『たぬきねいり』っていうのがゆるせません。都合の悪いときなどに、ねたふりをすることらしいですが、ぼくはそんなひきょう者じゃありません。たしかにぼくはおくびょうで、おどろいたときに、ショックでたおれて少しの間、気をうしなうことはありますよ。でも、それとこれとは、まったくちがうと思いませんか?」
いつもはのんびりやのタヌキのポンすけも、ゆう気をもって思い切って発言しましたが、その顔は真っ赤でした。

動物村では、毎月一度、会議が行われます。
「今日は、何の会議だろうね」
「きっと、あれだよ。この前、サルのモンキチくんが、木になっていた実を全部食べちゃっただろう? あのことについてだよ」
「いや、アヒルのガー子さんが、池をひとりじめしてることじゃないの?」
村の動物たちが、がやがやにぎやかです。

「おしずかに! 今日は人間界におけるわれわれのイメージをどうかえていくかについての話し合いじゃ。まず、ブタ子さんの話を聞こうかのう」
年取った、議長のヤマネコおじいが、せすじをのばして立ちました。
「わたくし、『ブタにしんじゅ』がゆるせませんわ。ねうちのわからない人には、どんなにかちのあるものをあげても、むだなことのたとえだそうですが、わたくしだってしんじゅの美しさくらいわかりますわ」
動物ことわざ会議1場面
「まあ、なんてしつ礼なのかしら。でもそれなら、ネコに小ばんっていう言葉もおんなじですよ。そりゃ、小ばんがあっても、この動物村では使えませんがね。あたしについていえば『ネコにカツオぶし』っていうのもあるんですよ。ゆだんできないじょうきょうをまねくことらしいですけど。目の前においしそうなごちそうがあったら、だれでも、すぐ食べちゃわないこと?」
ネコのミー子が早口でもんくをいったあと、つづけます。

「あたしはね、山田さんちのたかしくんが、お母さんが買い物に出かけた後、かくしてある箱に入ったチョコレートをこっそり食べてるのを知ってるんですよ。それなら『たかしにチョコレート』でいいじゃありませんか。なんでわざわざネコのせいにするんでしょうねえ。まったく人間にはあきれちゃいますよ」
ミー子のことばに動物村のみんなはうなずきました。

星の砂『ケータイ小説&コミック 星の砂』では子供向けの童話と絵本を募集。
文章のみ募集の童話と絵と文章で組み合わされた絵本の二つの部門に分けて募集を行います。

【童話部門】【絵本部門】共通要項
1.募集期間
2016年4月1日~2016年5月31日 まで。
2.発  表
厳正なる審査の上、2016年7月下旬頃に星の砂サイト上にて発表。
3.賞  金
優秀賞(各部門1名) 5万円
4.受賞者スペシャル特典
「電子書籍 星の砂文庫」(PC用サイト)で挿絵と朗読をつけて電子書籍化&販売。
◆詳しくはこちらまで 第6回 童話と絵本コンテスト 開催概要

中庭には行かなかったけれど、ぼくはやよいさんのことが心配で、何度か近くまで行ったこともあります。
半年たったころには、やよいさんのかなしみは、少しうすらいだようでした。

ある時、ぼくは、家の中がバタバタとそうぞうしくなり、部屋の中にダンボールがつまれていくのに気がついたのです。
《もしかしたら、やよいさんは、おひっこしするのかな》
明日がやよいさんのおひっこしという日のことです。
ぼくは、さいごのあいさつをしに行くことにしました。
どうしても、やよいさんに、今までのお礼が言いたかったし、「元気にくらしています」ということもつたえたかったのです。
やよいさんは、近所のお姉さんと立ち話をしていました。
「これまでいろいろお世話になりました。ひっこすといっても、それほど遠くはないから、また遊びにいらしてね」
やよいさんがお姉さんに、そう話しているときに、ぼくはその横をゆっくり通りすぎました。
やよいさんは、すぐにぼくだとわかってくれました。
でも、そのお姉さんが、あんまりネコがすきじゃないことを知っているので、はっとした顔はしたものの、それまで通りお姉さんと話をしながら、だまってぼくにしせんを送ってくれました。
「今まで、ありがとうございました。ぼくは元気でやっています。だから安心して、おひっこししてください」
そうニャア、ニャア言って、ぴんと立てたシッポを3回ふりました。
しっぽで3場面 やよいさんにもその言葉はとどいたようで、ほっとした様子でした。
そして同時にさびしそうな顔もしました。
「さようなら、やよいさん。やよいさんもお幸せに!」
ぼくは、もう一度、やよいさんに大きくシッポをふって、後ろをふり向かず、歩いて行きました。

秋が始まったころ、ぼくは首にピンクのリボンのついた、白いふわふわの毛をした女の子に出会いました。
シッポで2場面女の子は、とてもふあんそうに見えました。
「こんにちは。このあたりでは見かけないネコだね」
「わたし、はじめて外に遊びに出て帰ってきたら、おうちがなくなっていたの」
話を聞いてみると、外にさんぽに出て帰ってきたら、かいぬしが引っこしていなくなっていたようなのです。
はじめての外の世界がうれしくて、1週間も帰らなかったそうで、その間にかいぬしは引っこしてしまったのでしょう。
きっとかいぬしも、ずいぶんかのじょをさがしたんだろうなあと思います。

何度か会っているうちに、かのじょはぼくのガールフレンドになりました。
ぼくは、おなかをすかせているかのじょを、やよいさんのところまでつれて行って、ぼくのエサをあげました。
かのじょは、むちゅうで食べていました。
「まあ、ごめんなさい! あなたのごはんだったのに、こんなにも食べてしまって」
はっと気づいたかのじょは、ぼくが食べられるように、場所をかわってくれました。
食べられるりょうは半分になっても、かのじょがおなかいっぱいになるのを見るのは、幸せなことです。
「そとお君は、かのじょ思いなのね。かのじょが食べている間、ちゃんと守ってあげてるなんて、男らしくてすてきだわ」
やよいさんの心の声にてれてしまうぼくでした。
他のネコが来ると、かのじょがゆっくり食べられるように、ぼくはフーッっとおこって、追いはらいます。
やよいさんのおかげで、ぼくたちはおなかをすかせることなく、寒い冬でも、心も身体も温かくすごせていました。

そんな12月22日のことです。
やよいさんのご主人が、とつぜん、なくなってしまったのです。
やよいさんの家の中から、かなしみがあふれ出てきて、ぼくは、つらすぎて、そこにいることができませんでした。
そしてその日から、ぼくはやよいさんの家に行くことができなくなったのです。やよいさんのなく声を聞いて、心がしめつけられるような気がしたからです。
ご主人をなくしたかなしみの中でも、やよいさんは、ぼくたちへのエサをわすれた日はありませんでした。
ぼくは行けなかったけれど、かのじょ女だけは、毎日食事をしに行っていました。
「『そとお君が来なくなって、どのくらいかしら。ねえ、白雪ちゃん、そとお君は元気にしてるの?』って聞かれたわ」
かのじょの言葉から、やよいさんが、ぼくのことを心配してくれているのがわかりました。
かのじょも、白雪ちゃんという名前を、やよいさんにつけてもらったようです。
なんでも白雪ひめという真っ白なおひめ様がいたそうで、そこからとった名前なんだそうです。

これは、キジネコのぼくと、やよいさんとの間にあった、本当のお話です。
物心ついたころには、ぼくはもう一人ぼっちでした。
「しっし、ノラネコはあっちへ行け!」
ぼくたちは、名前もなくて、みんな同じ「ノラネコ」とよばれ、なかなかごはんにもありつけません。
しっぽでさようなら1場面
ある暑い夏の日に、ぼくは、どこかの中庭にまよいこみました。
「ごめんね。うちには、もう2ひきのネコがいるからお前をかえないわ。かえないのに、ちゅうと半ぱなお世話はできないの。がんばって一人でエサを見つけるのよ」
いつも追いはらわれてばかりだったのに、家の中からあふれ出てきたその言葉は、何てあったかなのでしょう。
そのころのぼくは、エサにありつけず、夏の暑さもあり、だんだん体力がなくなっていきました。
へいにとび上がることもできず、よろよろと歩いていた日のことです。
「もう、見ちゃいられないわ。」
女の人が、エサをもってとび出してきました。
そうして、だれも見ていないのをたしかめると、みぞにエサをたくさん入れてくれて、そのまま家の中に入って行きました。
それが、やよいさんでした。
なんておいしいごはん!
こんなにおいしいごはんは、これまで一度も食べたことがありません。
よく日、ぼくは、またあのエサがもらえないかなあと思って、中庭に行きました。
「そうよね。一度あげたら、またもらえるかもって期待するのはあたり前よね。一度あげてしまったからには、せきにんをもってあげ続けないといけないわね」
エサに期待しているぼくに気がついたやよいさんは、エサとエサ入れをもって外に出て来ました。
「このみぞで毎日あげていたら、近所の人に見つかってしまうわ。あらっ、ここはどうかしら。ここなら外からは見えないし、ネコちゃんもゆっくりごはんが食べられるわ」
やよいさんは、外にとび出している自分のうちのくつ箱の下のすき間を見つけました。
そして、たっぷりエサの入ったエサ入れを、板をわたした上においてくれました。
「ここならだれにも見つからずにゆっくりエサを食べられるでしょう?」
その日から、やよいさんは、毎日ぼくのために、エサを用意してくれました。
「さあ、そとお君、今日もおいしいごはんをいっぱいお食べ」
《えっ、やよいさん、今なんて言ったの? そとお君? それって、もしかしたらぼくの名前?》
ぼくに名前ができたんだ!それまで「ノラネコ」という、みんなといっしょのよび方でしかよばれたことがなかったのに、ぼくの、ぼくだけの名前ができたんだ!

あるおてんきのいい、はるのことでした。
ようちえんくらいの男の子が、おかあさんと手をつないでやってきました。
「ちかくにこんなステキなこうえんがあってよかったわねえ。あら、あそこにきれいなさくらがさいているわよ。」
えだをひろげているさくらの木はまんかいで、ときどき、うすももいろの花びらが、かぜにまっています。
「あっ、さくらの下にベンチがある!」
男の子は、おかあさんの手をふりほどき、ベンチにむかってはしり出しました。
そうして、右のベンチにすわると
「わぁい、一とうしょう! おかあさんも早く、早く!」
と手まねきしました。
右のベンチは、きゅうなできごとにびっくりしました。
なぜって、左のベンチにだれもすわっていないときに、じぶんにすわってもらうのは、はん年ぶりのことでしたから。
ぷんぷん右の木 ベンチ
「うわぁ、おいしいそう!」
おかあさんのつくってくれたおべんとうをひろげて、男の子はとってもうれしそうです。
そのとき、からあげの上に、ひらひらと、さくらの花びらが二まい、まいおりました。
「おかあさん、見て見て。おにくに、おかおができちゃった」
右のベンチには、おかあさんと男の子のしあわせがつたわってきます。

(これが、左のベンチくんがいってたことなんだな。ぼくは、どうしていままでそれに気がつかなかったんだろう。いつまでも、この二人のえがおが見ていたいなあ。ぼくは、なんてしあわせなんだろう)
「ベンチさん、ありがとう! またくるね」
男の子はかえるときに、右のベンチにいいました。
右のベンチはそれをきいて、おもわずにっこりほほえみました。なんだかこころの中が、ぽかぽかします。
それからというもの、どちらのベンチにも、たくさんの人がすわるようになりました。
右のベンチは、左のベンチとよくおしゃべりするようになり、まい日がたのしくなりました。

もう、さびしくなんてありません。
きょうもこうえんには、みんなのえがおがあふれています。
「こうちゃんって、おだんごつくるのじょうずねえ」
ひっこしてきたばかりだった、あの男の子は、みじかいかみの女の子と、すなばでなかよくおだんごをつくっています。
一人ぼっちだったおじいさんにも、ともだちができ、うれしそうにおしゃべりをしています。

ベンチたちは、ニコニコとみんなのようすをみまもっています。
まいばん、みんながかえったあとのこうえんで、二つのベンチは、きょう見たしあせなできごとをはなします。
「ピンクのふくの女の子、きょう、はじめてあるいたんだよ!」
「ママ、大よろこびしてたね」
「おじいちゃん、おともだちがたくさんできてよかったね」
「今では、おじいちゃん、こうえんのにんきものだね」
はなしながらだんだんねむくなっていくベンチたちの、さいごのことばはいつもおなじです。
「あしたもはれるといいね」
「うん。またみんなのえがおがみたいからね」

ある日のことです。
とおくの方で、ブーン、キィーンという、大きないやな音がきこえてきました。
二本の木はびっくりしてかおを見あわせました。
「なんの音だろう」
右の木はふあんそうに、左の木にききました。
ぷんぷん右の木 -鳥「はじめてきく音だね。きょうは小とりも来ないし、森のようすもなんだかへんだね」
そのうち、そのいやな音がだんだんちかづいてきました。
なんとそれは、木をきるでんきノコギリの音だったのです!
いよいよ、でんきノコギリのはが、右の木のみきにあてられました。
「うわぁ、たすけてぇ。きられるなんていやだよぉ」
右の木は、大きなこえでなきました。
左の木も、そのこえをききながら、こわくてふるえていました。
「ああ、もう、子どもたちのえがおが見られなくなるんだ。小とりたちの、たのしいはなしもきけなくなるんだ。ああ、かみさま、どうかたすけてください。でも、もしきられてしまうなら、どうぞ、べつのものにかたちをかえて、たのしいおもいをさせてください」
そうねがっているうちに、左の木もきりたおされてしまいました。

二本の木は、きられたあと、どうなってしまったのでしょう。
なんと二本の木は、ベンチに生まれかわり、ぐうぜんにも、またおなじこうえんでとなりどうしになったのです。
そのこうえんは、シーソーとすなばがあるだけの、小さなこうえんでした。
よちよちあるきの子どもをつれたおかあさんたちや、かいものがえりのお年よりたちが、入れかわり立ちかわりやってきます。
ぷんぷん右の木2さいしょのころは、どちらのベンチにもすわっていた人びとでしたが、いつのころからか、りょうほうのベンチがあいていたら、みんな左のベンチにすわるようになったのです。
ベンチになってからは、えだもありませんので、小とりがとまることもありませんし、子どもたちがどんぐりをひろいにくることもありません。
そうなってはじめて、右のベンチはさびしいとおもうようになりました。

ある日、右のベンチはおもいきって、左のベンチにはなしかけてみました。
「ねえ、どうしてみんなきみにすわるんだろう。きみもぼくも、おなじかたちといろをしているとおもうんだけど」
「ん~。どうしてなんだろうね。ぼくにはわからないよ。でもね、ぼくはすわってくれた人がたのしそうだと、とってもうれしくなって、『この人たちのしあわせが、ずっとつづきますように』っておもうんだよ。
ときどき、ひとりぼっちのお年よりがすわることがあるのさ。じっと目をとじてしずかにしていると、お年よりのきもちがつたわってくるんだよ。『だれかとはながしたいなあ。しばらくだれともはなしてないなあ』って。
だから、『だれかお年よりに、はなしかけてくれないかなあ』ってこころでおもうんだけど、そのときにふしぎなことがおこるんだよ」
「どんなことがおきるんだい?」
「よこにすわった人が『きょうはいいおてんきですねえ』ってはなしかけたり、小さな子どもが、よちよちあるいていってわらいかけたり」
このこうえんにくる人たちが、なんだかしあわせそうなのは、このベンチのおかげなのかもしれないなあと、右のベンチはおもいました。
「そうだったんだね。じゃあ、ぼくもきみのように、すわった人のことをおもいながら、ここにいることにするよ」
それでもしばらくは、みんな左のベンチにすわるのでした。