WEB版『BOOK&another story』(4/5)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

『海辺のカフカ』アナザーストーリー  作・田村理江

16になった朝、僕はナップザックひとつで家出した。とりたてて家族に不満があるわけでも、居場所がないわけでもないけど、「ここではないどこか」へ行かなきゃならない衝動が身体を自然に動かしただけの話。

夏休み中で、駅は朝から人の列。長距離列車の切符と駅弁を買い、固いシートに身を沈める。スマホで音楽を聴きながら目を閉じる。まる一日、そうしているうち、田舎にしては大きな駅に着き、迷うことなく駅前の古いデパートにしのびこんだ。

今日からここが「僕の家」だ。怖いことなんか何もない。毎年、夏になる度、父さんの車でこの町に来ていた。じいちゃんとばあちゃんが住む町だから。
去年来た時には、すでに家出計画は練り上がっていて、デパートのどこに隠れたらいいか目星はついていた。閉店を知らせるドボルザークが流れる寸前、僕はひと気のない家具売り場のベッド下に身をひそめ、従業員たちが慌ただしくフロアから姿を消していくのを見届ける。天井の明る過ぎるライトが、引き潮みたいに端から消えていく。

警備員の靴音が去り、真っ暗になったら、持参のLEDライトを頼りにベッドの上へと飛び移る。「僕の家だ」と、小さく声を出してみる。
「そうかしら?」
誰かに問われ、ギョッとして声のほうを見た。僕と同じ年くらいの少女が、同じベッドの端に座っていた。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学経済学部経済学科を2017年の春卒業して、出版社勤務予定。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。