WEB版「BOOK& ~川越からの物語」展(2/3)

早速、瑠衣がおみくじ型のクッキーを作った。ココアパウダーを混ぜた生地で「大吉」だの「末吉」だの、文字が組みこまれている。
それをたいやきの中に入れ、焼き上げたら、できあがり!
ひと手間かかる分、値段も50円アップしてみたが、
「やった! われながら、センスあるぞ!」

ひと月も経たないうちに、店には行列。地域の新聞やローカルなテレビ番組で紹介されるやいなや、ますます人気が高まった。SNSでも、バッチリ紹介され、いまや海外のお客様も。
「ほらな、大吉ばかり入れたってとこが、いいだろ? 人は救いを求めているんだ」
奏多は、瑠衣に胸を張った。

「救いねぇ。ほんとかしら?」
「ほんとさ。今日だってーーー」
この店のたいやきに励まされて、舞台に立つことができたと、奏多に笑いかける少女がいた。
この町の小さな劇団の子らしい。縁起をかついでか、事あるごとに、たいやきを買いに来て、そのたび、新しい活躍の話を聞かせてくれる。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ