WEB版「BOOK& ~川越からの物語」展(3/3)

文・田村理江  

「あーあ。今日はついてないな」
別のお菓子を探していたら、梅さんが、
「すまないねぇ」
と、びっくりするほど優しく声をかけてきた。
「あの子はねぇ、あたしの幼馴染でねぇ」
「なに言ってんの。幼馴染って、同じくらいの年だよね? おばあちゃんと、あの子、百くらい違うように見えるよ」

卓哉が笑うと、梅さんも、つられて笑った。
でもまたすぐに、
「あの子は、あたしの幼馴染でねぇ」
と、繰り返した。

「大正時代のちょうど今日、大きな地震で死んじまったんだよ。たった五つでな。いっぺんでいいから、チョコレートってもんを食べてみたいって、いつも言ってたんだ。忘れようにも忘れられない」
その頃のチョコレートは、たいそうな贅沢品だったことを知って、卓哉の胸は熱くなった。
そして、梅さんが、なんで駄菓子屋さんになったのか、なんで店じまいをしないのか、も。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ