WEB版 Sweet Harmony展(3/3)

文・田村理江   絵・小野寺美樹

「お疲れさまー」
みんながホッとひと息ついた時、宮殿の柱のすみっこで、かすかな声がしました。
「わたしは、まだよ」
その声を聞きつけ、見習いエンジェルが、駆け寄りました。
柱のすぐそばに、まだチョコの衣をつけていない苺が、一粒。

見習いエンジェルは、そっと拾い上げ、チョコの鍋へ運びました。
けれど、鍋はからっぽ。今日中に何とかしなくちゃ、せっかくのツヤツヤした苺が腐ってしまいます。
見習いエンジェルの手の中で、苺が泣きました。

「わたし、捨てられちゃうのね。誰にも食べてもらえないうちに」
見習いエンジェルは考えて考えて、それからポンッと手をたたきました。
「そうだ! ぼく、いいものを持ってます」
道具箱から取り出したのは、小さな四角い、透明な箱。

「これは、フレッシュ・キープ・ボックスです。ここに入れば、あなたはずっと、今のままの姿でいられます」
「まぁ、すてき! では、明日まで、中で寝かせてもらうわ。明日になったら起こしてちょうだい。チョコをつけて、おめかししてもらわなきゃ」
箱の中に入った苺は、ビロードのドレスのように赤く輝いています。形だって、芸術品みたいに美しく、見習いエンジェルはうっとり。

「苺って、こうして見ると、とてもきれいな果物なんだな」
チョコの衣をまとった時より、ずっと美味しそうです。
「このまま、とっておきたいな」
だから、見習いエンジェルは、1週間経っても、2週間経っても、苺を眠りから起こさず、箱を宮殿の床下に隠してしまいました。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ

小野寺美樹 について

(おのでら みき)1995年千葉県生まれ。学習院大学卒業後、武蔵野美術大学造形学部に編入。2012年春から毎年、『BOOK展』(ギャラリーウシン)に絵画作品やポストカードを出品。