ぐるぐるとおせんぼ (3/4)

文と絵・満月詩子

シマ吉は、すみかだった田んぼまでもどってきました。久しぶりの田んぼです。小さかった苗がぐうんとのびて、青いくきを風にそよがせています。
シマ吉は、田んぼの中にもぐると、大きくいきをはきました。
(これでいいんだ。だいじょうぶ。アカネを信じよう。おれたち、友だちなんだから)
シマ吉は、じっと田んぼの中で耳をすませると、いきをひそめて待ちました。

お日さまが少しかたむいてきたころ、大好きなアカネのにおいが、シマ吉のはなをくすぐりました。
(よし!)
シマ吉は、口をきゅっと結ぶと、みけんにしわをよせてこわい顔を作り、田んぼの中から、しゅるしゅるとはい出しました。
「あれ? ヘビさん!」
写本 -シマ吉の通せんぼシマ吉は、うれしそうに手をのばしてきたアカネを、ぎろりとにらみつけました。そして、ぐるぐるとトグロをまくと、鎌首をもたげました。
(アカネ、この先は行くな。あぶないし、山のふもとは、おまえが行くには遠すぎる)
シマ吉は、必死に告げました。
しかし、アカネには「シャー」となく声しか聞こえません。
真っ赤な目でアカネの顔をぎろりと見すえ、大きな口から赤い舌をちょろちょろと出し、シマ吉はうったえつづけます。
(車もいっぱいだし、迷子になるかもしれん。帰れ。引きかえしくれ。おれがいる。おれが、アカネの友だちだから)
シマ吉のうったえに、アカネの身体が固くなっていきました。ずさり、ずさりと、少しずつ身体が後ろに下がっていきます。
(わかってくれたか。もどってくれるか)
シマ吉がホッとほほをゆるめたその時、
「こわい・・・。こわ~い。ヘビさん、きらい!」
アカネは、シマ吉をにらむとさけびました。そして、町の方へ走りさっていきました。
シマ吉は、走るアカネの後ろすがたをぼうぜんと見送りました。ひきつったアカネの顔と、「きらい」の言葉が、頭の中をぐるぐるとまわっています。
(こわがられるかもって、かくごはしてたからな・・・。おれは、もとのいっぴきヘビにもどるだけ、へいきさっ)
シマ吉は、にじみ出そうになる涙をこらえると、空をあおぎました。そして、頭をぶるぶるとふると、田んぼの中にきえていきました。
それから、シマ吉がシイの木に姿をあらわすことはありませんでした。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。