ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(1/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

1 一難

「おい!」
「えっ?」
あのじいさん、あたしを手招きしてる?
いや、んなわけないか、まったく知らない人だ。
あたしは、ちょっとだけ会釈して、じいさんの前を通過した。

「おい! おまえ!」
「あたしですか?」
「あたしですか? だぁ? ほれ、よーく、見てみろ」
じいさんが、ずん、と迫る。
「はあ」


つい、のほほんと返事をしてしまったけれど、ノーミソはフル回転だ。
道を歩いている見知らぬ娘を呼び止め、よーく見てみろ、と観察を迫る。
これは、この地方の風習か?
世の中には、いろんな風習が存在する。
あたしなんかの少ない知識では計り知れないほどの風習が。
中には、そこに住む人以外には奇習としか思えないものも、存在する。

近畿地方の山間部では、一日のうちの一定の時間、だれと出会っても、一瞬無視して、それから挨拶を交わす。

夏至の未明、白塗りをして、松明を掲げて山に登る。山頂では、松明の火で餅を焼き、餅を食べながら、ご来光を拝む。
これは、奇習の宝庫ともいえる山陰地方の、比較的よく知られたもので、メディアにもよく登場する。

ああ、北陸地方には、こんなのもあったな。
これでもか! というほどに、「よそう」というよりは、盛りまくられた、ごはん。もう、堪忍してください! というほどに、積み上げられたささがきごぼう煮。
まるで、ツインタワーのようにも見える、ごはんとごぼうを、紋付袴の男衆が、1年の息災を祈りながらもくもくもくもくと食す。

それに、そうそう、四国には、思い返しただけでも、笑っちゃうようなのもあるんだ。
「ぷぷぷぷ、ぷはっ!」
自分の世界に入りこんだあたしは、
「うおっほほほん」
じいさんの咳払いで、引きもどされた。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。