ハトのオイボレ、最後の冒険(1/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

仙台駅のペデストリアン・デッキは、毎日、大勢の人々でにぎわいます。
いえ、人間だけではありません。
実は、たくさんの鳥たちが、生き生きと、活動している場所でもあるのです。
朝は、カラスたちが、カアー、カアーと、呼び合います。
「あっちにビニールふくろが落ちているぞー。中味はフライドチキンだぞー」
「そっちにアイスクリームの食べ残しがあるぞー。うまそうな汁だぞー」

昼はハトたちのかっこうのえさ場です。
食べ歩きのおぎょうぎの悪い人間たちが、どんどこ、スナックをこぼして行きます。
わざわざ、パンくずなんかをちぎって、投げてくれる人さえいるのです。

夜には、デッキの足下から続く長いケヤキ並木に、たくさんのスズメが集まります。
大都会のど真ん中、そこは、イタチやヘビにおそわれる心配のないねどこです。
にぎやかに「おやすみの歌」を合唱してから、朝まで、ぐっすり、眠ります。
鳥たちがね静まったころ、お散歩する動物たちもいます。
ご主人と夜の散歩に出る犬もいれば、こっそり、家をぬけ出したネコもいます。

ネコのチェシャもそんないっぴきです。
ご主人が、パソコンで、パコパコ、仕事をしている間に、ベランダの窓からぬけ出します。
人がまばらになった駅ビル。シャッターの閉まったブティックや飲食店。夜おそくまで開いているレストランもあります。
その間を、ゆうゆうと歩いて、それから、ペデストリアン・デッキに出ます。
デッキのところどころにある花だんの中や、ベンチの下でくつろぐのです。

仙台の夏は、すとんと、終わります。9月を過ぎると、風は、急に、さわさわと、音を立て始め、空は、日増しに、高くなって行くのです。

そんなある夜、チェシャは思いがけないものに出くわしました。
お気に入りの花だんをのぞくと、植えこみの中に、1羽のハトが縮こまっていたのです。
チェシャは、ぴょんと、その前におどり出ました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに