いすから去った王子(4/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

ワタリガラスの王子

それ以来、しばらく、いすに挑戦する者はとだえました。
そりゃそうです。
どんなに美しい人と結婚できたって、死んでしまったら、全然、意味がありませんものね。

ところが、それからしばらくたったある日、とてもハンサムな王子がやってきたのです。
どのくらいハンサムかって、そりゃ、もう、すれちがう人、だれもが、ふり返って、ため息をつかないではいられないほどのハンサムでした。

ただ一つ、ふしぎなことは、その王子のぼうしには、黒い、ぶきみなワタリガラスの羽がさしてあったことでした。

お城に入り、王女の美しさを目にした王子は、
「ううむ、なるほど、こういうことか」
と、つぶやいたきり、しばらく、言葉を失いました。
「どうじゃな、ワタリガラスの王子殿? わが娘を妻にと、お望みかな?」
王様は得意顔です。

「はい。ぜひに」
王子は、深く、頭を下げました。
すると、王様の目配せを合図に、王女は、すらすらと、あの決まりきったせりふを言いました。
「100日間、窓の下のいすにすわり通したなら・・・」
「かならず、おおせの通りに」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井県福井市在住。 『指輪物語』大好きのトールキアン。その上にトレッキー(「スター・トレック」ファン)でシャーロキアン(「シャーロック・ホームズ」ファン)と、世界3大オタクをカバーしている。

伊藤耀 について

(いとう ひかる)1992年福井県福井市生まれ。仁愛大学人間学部心理学科卒。いつもはウサギばかり描いているが、ときどき、母親の童話に挿絵を描いている。福井市在住。創作工房伽藍で勉強中。