ピイの飛んだ空(8/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

つらくなかったといえばウソだ。
ずっといてほしいと、秋斗は何度も思った。外の世界はきびしいに決まっていた。できる限りを教えたつもりでも、人間に育てられたピイが、どれぐらいちゃんと生きられるかなんてわからなかった。
けれど秋斗には、ピイが一度は飛び出したあの空と、外の世界を待ちわびているように思えてならなかった。まだ黄色みの残るくちばしのまま、力強い羽ばたきをきたえながら、愛くるしかった黒い瞳はいつしか野性味を帯びた強い目に変わっていたからだ。

野生のスズメの寿命(じゅみょう)は、巣立ってから1年ほどのものも多いという。
じっと見送る秋斗のかたを、ポンポンとお母さんがたたいた。
不意にホッとして、何かが胸のおくにわき上がるのをこらえきれずに、秋斗は顔をくしゃっとゆがめた。泣くもんかと思ったが、さみしさと安心がないまぜになって、チクチクと胸をさすのにたえられなかった。

「がんばったね、秋斗。ピイといっしょに、よくがんばったね」
くしゃくしゃとお母さんにかみをかき混ぜられながら、秋斗は一度だけ大きな声で名前をよんだ。
けれど、もう林の中からピイは返事をよこさなかった。
ただたくましく、もといた広くきびしい世界にピイは羽ばたいていった。 (了)

(本作品は「第30回日本動物児童文学賞」優秀賞受賞作を一部平易に改稿したものです)

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/